語り部 2020-09-21 13:43:28 |
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繁栄の国カサドニアの南西に位置するアーヴァイン領を統治するアーヴァイン公爵家。カサドニアにとってはかなり強い力を持つ貴族である。そんな公爵家に不穏な影を落としたのは今から約八年ほど前のこと。
公爵家の嫡男の十歳の誕生日。彼の前に現れたのは姿形がそっくりな鏡から出てきたような少年。公爵家の遠い血縁者とのことであったが、それでも不気味なぐらいに同じ顔で嫡男はあからさまな嫌悪の態度を示した。どう考えても同じ両親から生まれた双子のように見えたからだ。ずっと一人っ子で公爵家を継がねばならないと言われ育てられた嫡男にとっては少年は未来を脅かす怪物に思えてならなかった。
その日から同じ顔した少年は何故か兄弟として共に暮らすことになる。少年の存在に畏怖していた嫡男は、少年の存在を無視し続けてきた。いないものとして扱ったのだ。
そして事件が起きる。
突然現れた黒いローブ姿の魔術師は狂気に滲んだ笑みを浮かべ嫡男へと襲いかかったのだ。
《キミに恨みはないが己の体の中に流れるアーヴァインの血を恨み呪うが良いよ》
魔術師はそういうや否や嫡男へと呪術を放つ。しかしそれは嫡男に降りかかることは無かった。それは今までいないものとして扱っていた筈の少年が身を呈して呪術を全て受け止めたからである。目標に呪術をかけられなかったことに舌打ちをするも、魔術師は笑う。
《まあいい、誤算ではあったが目的は達成した》
そう口にして魔術師は姿を消した。
嫡男の代わりに呪術を受けた少年は顔を両手で覆いながらその場に倒れる。命を投げ出してまで助けてくれた少年に嫡男はようやく自分がどれだけ愚かなことを彼にしていたのかに気づいて涙した。
《もう恐れはしない。君がいなければ僕はここにこうして無事でいられなかった》
なんとか一命を取り留めた少年は、呪術を受けた後遺症か顔半分の皮膚がまるで焼け爛れたようになっており、この日から社交界からその姿を見せることがなくなった。屋敷内でも醜い焼け爛れた顔を隠すように仮面を被るようなる。
このとき嫡男は何も知らなかったのだ。少年の存在の理由と魔術師に襲われた意味、そしてアーヴァイン公爵家の隠された真実を……。
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