着ぐるみパンダさん 2020-08-02 17:23:34 |
通報 |
>>439
「痛いことは痛いですが……大したことはないと言いますか、慣れっこといいますか」
擦り傷を触れば鋭い痛みが、痣を触れば鈍い痛みが走る。とはいえ傭兵をやっていればこんな傷は日常茶飯事だ。消毒して薬を塗れば、あとは治るのを待つのみ。その程度でしかない。
ふとステラの手を見る。同じ白でもゼクシアとはまるで違う、不健康なまでの肌色。だがこれは苦労や穢れを知らない手ではない。苦難や試練に立ち向かわず、閉じこもってきたわけでは決してない。
任務を与えられた時、彼女は溜め息混じりに語ってくれた。配下の兵を死地に向かわせておいて、当の自分は安全圏にいることへの自責の念。人を"数字"として"運用"しなければならないことへの無力感。そしてそんな現状に甘んじてしまう自分への苛立ち。
彼女もまた、戦っているのだ。
「ありがとうございます。こんな傷はさっさと治して、また最高の働きをしなければいけませんね」
いつぶりだろうか。施しを受けるという行為が、これほど心地よく感じられたのは。今までゼクシアが受けてきた施しには、ほとんどの場合裏があった。与えさえすれば望む通りに動く。与えられなければ生きていけないから否が応にも動く。まるで家畜でも飼いならすかのように。
単純な厚意で薬を、それも階級権限を用いて初めて手に入るような新薬を取り寄せてくれるという言葉に、犬なら尻尾を激しく振っているであろう深い喜びを覚える。
(……この人だけは裏切れない。裏切りたくない。もっと強くならなきゃ)
何よりも強く思う。自分こそが、この優しい女性を守らなくてはいけないと。
時に全てを突き崩す矛に。時に全てを堰き止める盾に。もう傭兵などではない。命に代えても、心から慕う人の心身を守り抜く、誇り高き騎士となるのだ。
初めて、自分の生まれ持った力に意味を感じた様な気がした。
(/全然遅いなんてことはないですよ~。確かにキリがいいのでここで終わりとしましょう!とても楽しかったです、ありがとうございました!)
トピック検索 |