とある荘園の主人 2020-01-21 01:05:13 |
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謝るなよ、エマ。俺が女に触れられてビビったり、気を悪くするような器の小さい奴に見えるのか?(とは言え女性に対し、脅すような真似をするなんてやり過ぎだ。素直に謝罪するエマを見ると自責の念に駆られる。寄る事と触れる事。一見似ているが、その境界線は非常に明確だろう。この手は敵意を以って相手を屠る為に在って、親しみを以て相手に触れる為ではなかった。だからその境界を易々と超えて触れてきたエマが羨ましくて腹が立ったのかもしれない。いや、勝手に領域を侵された事への怒りか。何にせよ今自分の中で色んな感情がない混ぜになって、それをどうにか治めたくて。温くなったハーブティーに口を付け、羨望も義憤も嫉妬も、それらを全て呑み込んだ。…いや、本当は自分にだって、信頼出来る相棒って奴が居たんだ。けれども今は一人ぼっち。ただそれだけ。ぎゅっと苦しげに眉根を寄せ)…謝るのは俺の方だ。…マーサ、お前の可愛いエマを虐めちまって悪かったな。性根が捻くれてるもんだから、張り切ってるエマを見るとついちょっかいを出したくなる。エマもだ。さっきは散々言っちまったけど、お前のその気質ってのは唯一無二で、それは今の俺には願っても到底手が届ねぇんだ…だから、自分を大切にしてくれ。誰かに汚されように、傷つけられないように。(思いがけず遠い過去に思いを馳せながら、エマの方へ向き直ると自嘲気味に語りかける。尤もマーサの聞くものに絶対的な安心を与える力強い言葉の後に、わざわざ自分の安い言葉を重ねる必要があるのかと思わなくもなかったが)…あと、あー…エマ。さっきのお前の口説き、正直言うと悪くなかった。本当にほんの少しだけだがぐらついた。認めんのすげぇ腹立つけどな…。だからマーサの言う通り、くれぐれもお前が心底惚れた奴だけの為に披露するんだな。大抵の男は絶対落ちる。間違いねぇよ。(『大丈夫』、そう繰り返すエマの言葉の真意は掴みかねるが、どことなく悲哀の籠もった声音を聞けば、彼女にもかつて仄暗い何かがあったのは想像に難くない。だが今の自分は彼女の過去など知り得ないし、マーサのように寄り添う術も持ち合わせてはいない。とりあえず口を開いたは良いが、慰めようにも口を突いて出るのは可愛げのない言葉の羅列。いい加減自分にも感傷的な雰囲気にも嫌気がさして、エマのナイト役はマーサに任せると、お手上げだとばかりにぐったりと頭を垂れて)
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