ボディガード（頼んでない）

え、ああ…何だ。手か。
肌荒れしてるモデルなんて嫌だろ？
(一瞬口篭るものの相手の視線に気付いたのか、自分の片手を持ち上げて顔を崩し、屈託なく笑い)

そんなことはありません！たとえハルマの肌が荒れていようと、原型を留めないくらいに破壊されようと、私はハルマを愛し続けます！嫌になるなどということは､ありえません。
（こころなしか胸を張り､自信ありげにそう言い放つ。篠崎の問いから少しズレた返答ではあるが、自身の答えに満足したようにうんうんと頷き､ですが包丁でお怪我などなさりませんように､とするりと指を撫で）

はは…そんなに？何だか嬉しいな。
そこら辺は大丈夫だよ。慣れてるし。
(嬉しそうに、しかしどこか引き攣ったような笑顔を浮かべて微笑んでは相手の心配に答え)

ハルマ……？どうかなさいましたか？
（篠崎の微妙な表情のいびつさに気づく。慣れていると言った動詞が『料理に慣れている』という意味か『怪我をするのに慣れている』と言った意味か判別がつきかね､後者ならばそれこそ相手を物理・社会的に粛清してやろうと思い黒いオーラを撒き散らしながら篠崎の返答を待ち）

…キミこそ、どうしたんだ？顔が怖いけど…。
そりゃあ、料理を始めたての頃は怪我を
良くしたよ。指を切ったり…。
(相手のオーラは見えずとも本能的に感じるのか、更に顔を引き攣らせては仕事で見せる笑みよりもかなりぎこちなく微笑み)

そうでしたか……。いえ､あなたを悩ませる何者かが存在しているのかと思うと、つい。
なんだか､ハルマが……。
（言葉を濁し、それ以上は続けなかった。誤魔化すように視線をさ迷わせる。は､となにかに思い至ったように息を漏らした。不意に篠崎の手を取ると、やたらに粘着質な目線で眺め回す。……怪我は残っていないようだ｡そう確認し終えて）

…そうだ、オムライスとかどうだろう。
すぐ作れると思うけど。
(話を変えるように無理矢理表情筋を動かして微笑み、相手に提案をして)

……オムライスですか､大好物です！すぐに作れるだなんて、ハルマはなんて完璧なんでしょう！
（ぱちん！と両手を合わせ、小首をかしげるという大の男にはとても似合わないしぐさをやって見せ､篠崎の話題転換に乗った。本当は好き嫌いは特にないが、篠崎が作ったというだけでそれは至上のものとなるため満面の笑みになり）

本当に？なら、久々に頑張ろうかな…。
(微笑み、料理を始めようとパックから卵を取り出し、シンクの角に2、3回ぶつけて割り。そしてその割った卵をボウルに入れて良くかき混ぜ。次に白米にケチャップを入れて混ぜ、色が変われば切った具材を入れてまた混ぜ。最後にその白米を炊飯器に入れれば「暫く待っててくれよ」と微笑み)

はは、俺は完璧じゃないよ。
顔立ちだってそんなに綺麗じゃないし、
頭も然程良くないし。スタイルだって普通だ。
唯一自慢できるのは手ぐらいだよ。
(相手の完璧、という言葉に苦笑いし、「完璧ってのはアカネみたいな奴だよ」と呟き)

……？アカネとは？
（突如出てきた名前に目を瞬かせ、疑問を口にしてからはっと気づき）

いいえ､ハルマは完璧です！優しくてお綺麗でお仕事も頑張っていらっしゃって、もはや存在が､魂が尊いのです！その上料理もできるだなんて！アカネが何者かは存じ上げませんが、ハルマはアカネよりもはるかに素晴らしい存在であると断言しましょう！
（熱のこもった仕草でそう言っているうちに､アカネに対するほんのりとした憎悪が思い浮かぶ。呟かれるくらいに篠崎に意識されているアカネに嫉妬したからだが、現段階では気づいておらず、ところでアカネという奴はあなたにとってのなんですか、と聞き）

アカネ？ああ、モデル仲間だよ。
誰にでも優しくて、完璧な奴なんだ。
(乾いた笑い声を上げると「俺なんかじゃ何年経っても追い付けないような奴」と言い)

何年たっても追い付けない？なるほど年増。加えてあなたに負い目を感じさせる存在､「なんか」と言わせるような存在……。アカネのフルネームをお教え願えますか？
（いよいよアカネの存在がうっとうしいものに思えてきて、顔をしかめた。そうするとキツめの顔立ちがよりいっそう近寄りがたいものに変化する。思案後､携帯を取り出してどこかにコールしはじめ）

…それは流石に…無理だな。
(困ったように髪を引っ掻けば、表情を明確に歪め。「親友の名前を教える訳にはいかないかな…」と呟いて)

は……？親友？あなたの？親友？どんなきっかけで親友になって今はどんな関係でアカネはどんな奴なんです？どれくらい親しいんですか？は？俺より？
（コールをぶちっと切り、威圧感を発しながら矢継ぎ早に質問を飛ばす。アカネを篠崎の心から消し去りたいと願いつつ、篠崎の腕を強引に掴もうとし）

…shut up！Be quiet！
(手を振り払うと凛とした声ではっきり言い放ち)

アカネは！俺の幼馴染み、だ！
優しくて、誰にでも笑顔で！
(「キミに関係のないことだろ！」と眦を吊り上げては、シンクに握りしめた拳を強く叩き付け)

は……ハルマ……。
（振り払われた手を呆然と見つめ､短く嘆息して）

そうなのですか。アカネはあなたの……。致し方ありません、我慢しましょう。
（そう言いつつ、なぜ怒らせたのかよく分かっていない。理由を述べなければ恐らくこれからも繰り返すだろう。腹の底では感情がくすぶったままで､その顔からは表情が抜け落ちている。篠崎の手を取り、お怪我は、と妙に冷静に尋ね）

…ごめん、俺もつい感情的になった。謝るよ。
(途端に先程までの激怒は消え失せ、ぺこりと頭を下げて)

その…キミにはあまり、俺の交遊関係に
口を出さないで欲しいと言うか…俺の友人を
悪く言わないで欲しいと言うか、ね？
これからは…それをやめて貰えると嬉しいかな。
(これからもこの会話を繰り返されるのはうんざりだ、だが下手に刺激してまた怒らせてはいけない。と思いつつ出来るだけ怒らせないように、と心掛けているのか優しく語りかけ、相手の手を包み込み。困ったような笑みを顔に浮かべては真っ直ぐに相手の瞳を見据え)

あなたの友人を､悪く、言うと。
ハルマが、嫌な気分になるのですか？
（まっすぐに見つめられ､どこかうろたえたような気分になる。その感情はただ､篠崎に嫌われたくないという目的から来るものだ。自身には友人と呼べるような関係の者がいないために、勝手が良くわからず、友人とは貶されると嫌になるものなのかと尋ね）

そりゃあ、勿論…。
友人のことを悪く言われると、いい気はしない。
(少しだけ微笑み、「そうだ…それなら、俺がキミの友人になるよ。これからよろしく…えっと、キミの名前は？」と手を差し出し)

あけたがわ。
あけたがわ、こうたろう､です。覚えてください。俺の名前です。俺も……幸太郎と呼ばれたいです。ハルマ｡
（友人という肩書きが少し複雑でありつつも､なぜか淡い嬉しさが胸中から生まれ、微笑みが浮かぶ。差し出された手をぎゅっと握り、その体温をそっと記憶にしまい込んだ｡数瞬後、炊飯器から炊き上がりの音が鳴り）