館の悪魔 2019-07-15 07:23:57 |
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【館】
真っ白な霧の中に、その舘は建っている。西洋造りの広い舘だ。
魔法でもかかっているのか、館の構造は変幻自在。
ある程度法則性も見い出せはするけれど、決して迷うことがないのは館の主ただひとり。
【インキュバス】
館の主はインキュバス、女を襲う淫らな悪魔だ。俗なあだ名は蝙蝠男。
見た目は艶やかな人間の男、多くの魔法を操れる。けれど、人の心を変える魔法だけは使えない。
恋をした女の精がもっとも美味だとわかっているので、インキュバスはあの手この手で獲物を惚れさせようとする。
【インキュバスの館】
彼はインキュバスとしては老齢で、若いころのような派手な活動ができなくなり、安定して女の精を喰べたいと考えるようになった──そうして、この館をつくりあげた。
いわばこの館は、女の夢に赴かなくなったインキュバスの巣であり罠だ。
【女たち】
館を歩く女たちには、大きく分けて2種類いる。
ひとつは、インキュバスが喰べるために魔法でおびき寄せた『蝶』の女。
もうひとつは、インキュバスと契約して館の住人になった『カナリア』の女。
蝶は生きるか死ぬかの瀬戸際にいるが、インキュバスに呪われていない。インキュバスの館で、カナリアたちの視線を受けながら脱出の手がかりを探す。
カナリアは安全を保証されているけれど、インキュバスと契約したので半ば呪われた存在だ。インキュバスの館で、インキュバスに与えられ、与えながら、蝶たちを見守っている。
【蝶】
蜘蛛の巣に捕らわれた彼女たちは、ある日突然白い霧に包まれて館の玄関に呼び寄せられた。攫われた証は、身体に刻まれた蝶のタトゥーだ。
館を脱出しなければ、インキュバスにとって喰われる。
館の主に捕まってタトゥーの部分にキスをされると、身体がインキュバスの指示に従うようになってしまい、心までは屈しなくても二度と館を出られない。
彼女らは現代日本、中世ヨーロッパ、古代エジプト、ドラゴンや魔法のいる世界、電子世界……様々なところから呼び寄せられている。
蝶は館の門を開けることはできない。浴衣を出る方法はふたつ、カナリアに開けてもらうか、タトゥーを消す魔法の小瓶を館の中から探し出すか。
インキュバスは大抵、彼女たちの前に、同じく館に捕らわれた男を装って現れる。そうして自分の用意した館の謎を蝶とともに解き明かしながら、彼女の心が緩んだ瞬間、その牙を食い込ませる。
カナリアたちはインキュバスを傷つけることはできないが、インキュバスと契約していない蝶たちには可能だ。
【カナリア】
鳥籠のなかの彼女たちは、契約を経てインキュバスの館の住人になった。契約の証は、身体に刻まれたカナリアのタトゥーだ。
インキュバスに安全な住まいと食事を提供してもらう代わりに、彼が空腹に喘いだとき、自分自身が死なない程度に彼を満たしてやらねばならない──いわば、インキュバスの非常食だ。
館の構造が魔法で常に変わっても、自分の部屋の行き方だけは不思議なことにきちんとわかる。
彼女らは現代日本、中世ヨーロッパ、古代エジプト、ドラゴンや魔法のいる世界、電子世界……様々なところから呼び寄せられている。
カナリアたちは館の門を開けることができる。館を出て同じ方角に歩いても、例の白い霧を抜けると、そこにあるのはそれぞれの世界だ。館の周りの白い霧は、彼女らの世界と館を繋ぐ。
カナリアは蝶を手助けすることもできる──館の主は小鳥の可愛らしい悪戯を面白がっているようだ。
その代わり、インキュバスに直接害を与えることはできない──やるならば、心を殺せ。
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