xxx 2019-05-03 12:15:15 |
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>24 黒川光
おや、此れは此れは失礼を致しました――此方をご覧下さい。我々は、此方へ招かれる死にたがり様方へより良いお迎えをご提供するべく、事前に幾らか貴女様に関する"あちらの世界"での情報へ目を通す事が義務付けられているのです。(混乱に次ぐ混乱に翻弄され、何を見ても何を聞いても兎に角戸惑うばかりの死にたがり達の心中を察してやれない訳ではないものの、経験上それら全てにまともに取り合っていては埓が明かないと言う事もよく知っていた。は、は、と浅くなる彼女の呼吸を感じつつ足元へ伸びる己の影の中からぬっと浮かび上がってきた羊皮紙を手に取り、丁寧に巻かれた其れを留めている黒いリボンを解いたかと思うと、紙面にみっちりと書き込まれた彼女の出生から館へ招かれる直前の出来事に至るまでの"記録"を彼女の眼前へ晒し「どうぞご安心下さいませ、死にたがり様。此の通り、私めは貴女様の情報を十二分に把握致しております故、貴女様のお口からあちらでの出来事についてお話頂く必要は御座いません。ええ、御座いませんとも」と、胸を張ってみせた。この状況で一体何をどう安心しろと言うのか。殆ど彼女を置いてきぼりにしてにやにやと得体の知れぬ笑みを貼り付けていた表情が不意にきりりと引き締まったのは、"帰して下さい"と言う一言を聞いた瞬間。ずいっと顔を近付け、瞬き一つしない瞳をいっぱいに見開いて彼女の眼差しを捕らえると「なりません!館に選ばれた名誉をお喜びになるべきです!貴女様は、死にたがりでなくなるまで此の館でお暮らしになるのです。お暮らしにならなければならない、無論あちらへ帰る事も命を絶つ事も許されません。お試しになられますか?」と、またも一気に捲し立てたかと思えば懐から取り出した銀のナイフをそっと彼女の前へ差し出して)
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