✿ 主 2018-11-05 05:29:18 |
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>46 黒縄
(すれ違う魑魅が向ける視線が身体に刺さるのが分かる。面に覆われた安心感の中、虹彩に馴染まない異形を眺めながら僅かな不快感に身を捩り、歩調を速めた。「ねえねえ、貴方は私の大事な人?」粟立つ心と背中を誤魔化すように狭い視界を目の前の彼に向ける。「あのね、なーんにも覚えてないの。だからね、鳥さんは初めて見たものを親だと思うんだよ。」言いつけの通りにぴったりと彼の側に寄ってから囁く。薄い唇は緩く弧を描き、黒の双眸を見詰める。譫言のようなその囁きには、やや遅れて気付き始めた事実への困惑が見え隠れした。昨日の晩御飯、ここまでの道程、自分の素性。全てが刳り抜かれたように、まるで最初からそこになかったのかと錯覚するほどに、何も覚えていない。絶えず自分に向けられる奇怪な視線の源を一瞥すると、顔を覆う面が解けないようきつく結び直す。今この世界で自分を知っているのは、自分を含めても彼しかいないんだと、そう思った。「ここ、どこなのかなあ。」先程の発言を馴染ませるように語尾を伸ばす。冗長に呟いた質問は、前者の質問が頭の片隅ではNOだと分かっているからなのだろうか。)
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