悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
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(痛みを感じたのは最初だけ。その痛みも今の彼の表情を見ていると彼の心の痛みに比べたらなんてことのないものだ。脳内に反響するコクリコクリとゆっくりした嚥下音、自分の血液が相手の中へ取り込まれ、彼の生きる糧となる音。不思議な気持ちだった。常人なら恐怖を感じる行為だが、自分は彼の役に立てている、そう思うと、あの日から、血で真っ赤に染まった地獄の日々からぽっかり空いて、見ないふりをしてきた穴を満たしてくようだった。それは少しでも履き違えれば危険な感情だと自覚していたから、彼の気が済むまで目を伏せて無心でいて、首元から牙が抜けるチクリとした痛みに目を開くと申し訳なさそうにする紅い双眸を優しく捉えて。「もう大丈夫なんですか?…私は大丈夫ですよ。カルマさん優しくしてくれたので痛くないです。──ッ、ふふ、くすぐったいです。」あんな大怪我をして今の血液量でちゃんと補えたのか、遠慮しているのではないかと彼の顔色を伺いながら、自分は全く心配いらないと微笑んで見せる。彼が吸血をする前もその最中も、そして今も気を遣ってくれていることは充分すぎるくらい伝わってきて、眉を下げてこちらを心配してくれる表情が可愛らしくみえてしまい。首筋に当たる彼の柔らかな髪や頬への口付けに少しだけ身をよじって小さく笑いを零せば、寝そべったまま彼の頭をよしよしと撫でて「よくできました。」としっかりと最後まで自我を保てたことを子供を褒めるように優しい眼差しを向けた。それから上半身だけ起こして、彼を膝の上に跨がらせた状態になると彼の両手を手に取って、地面を強く握ってついてしまった土の汚れを、指を優しく撫でるように落としていき。「また必要なときは遠慮なく言ってくださいね。体の丈夫さだけが取り柄なので、心配は無用ですよ。…でもこれ、美味しいんですか?」視線を彼の手から紅い瞳へと合わせてまっすぐに見れば自分の意志が本気なことを物語らせる。果たして自分の血液だけで彼の飢えが満たされるのかは微妙だし、人間の自分には当然だが美味しいとは感じない。人間にも味覚の好き嫌いがあるように彼らにもあるのだろうかと、彼の口元残った自分の血液を人差し指ですくってしげしげとそれを眺めて問いかけてみる。そして彼の姿を見てまた何か思い立ったように顔上げ「…服、新調したほうが良いかもしれませね。」と。自分はカソックの変えはあるため足りているが、彼を誘って危険な目に合わせて服を駄目にさせてしまったのは自分の落ち度。新しい服を買い与えるくらいのことはしてやりたいと思って。)
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