悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
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(自身の手に添えられた相手の手からは、ほんのり温かい人間本来の体温と少しぎこちない動きからは緊張している事を悟った。体温などという概念が存在しない自分からは温かいというのも少し不思議な感覚で、手を離してからもその部分に余韻が残っているように錯覚していまう。自分がナイフを向けた時も、誘惑したときも自分の極度の場に仰せたとき相手の瞳の奥では恐怖心や焦りの他に、違う感情が見え隠れしている。その、闇をも取り込み渦を巻くように静かに佇む感情は、自身の身に降り注ぐ危険さへも冷静に捉えるよう神父が自身に暗示をかけたように、きっと彼も気づいていない無意識下にあるのだろう。その優しい仮面の下に底の見えない闇を抱えている彼も、それを素直に出さず会話の中で客観的に示してきた。「…俺が外を出て数秒で動き出すから、用が済んだら呼びに来て。俺も貴方とゆっくり話がしてみたかった…から。」流れるように目線を外し相手の後ろにある扉に向かって歩みを進める。握っていたナイフは神父の掌に置き包み込ませる形で握らせ、扉へと手を掛ける。───パタン、と静かに閉められた扉を振り返ることはせず教会内の時間も正常に進み始めた事だろう、跳躍するように地面を蹴り上げ協会の屋根まで翼を広げた。そこからは協会周辺の景色が一望でき、薄暗い空間にぽつりぽつりと町並みの街灯や窓から漏れる光が夜という時間帯を彩っている。やんわりと輪郭を描いた燈から先程の言葉を思い出した、「…友人として…か。」今回ばかりは嫌われる事を百も承知で、相手に刃を向けたというのに友人としてだの、食事を用意しただのと、自身のペースを全く崩さずましてや悪魔に食事を用意するなど驚きの範疇を超えている。悪魔と人間との分け隔てなく接せられペースを乱されているのは自分の方なのかもしれない。ふと、先程握られた片手を静かに見詰める、未だに余韻の残っているそれは一体何なのか。今までの自分には感じたことの無い懐かしく、なぜか胸が締め付けられるこのもどかしさこの気持ちを遠ざけるようにゆっくりと目を閉じた。瞼の裏で再生されるのは今まで見てきた人間の醜く姿を変えた者達の断末魔、悪魔本来の冷徹さを保つのには効果的だったようで闇が深くなっていく時間の流れに比例して手の温もりも消えていった。神父様の微かな声と扉の開く音に下に目を向ければ出てきたのは先程の町の男の、蒼白だった顔はまだ強ばっているものの露わになっていた怒りはだいぶ落ち着いるように見える。その男を見送っていた神父様の頭上から、「悪魔と手を握ったからには、あの娘が元に戻ることは不可能なのに、どうやって説得したのさ?…無いはずの希望を渡したって相手にとってそれが絶望になるかもしれないってのに。」皮肉を込めた言い方は、少し冷たく聞こえてしまったかもしれない。だが、正直なところあの男の怒り方は、ちょっと話をしたぐらいじゃ落ち着くなんて無理なことだろう。率直な疑問を込めて、そんな質問を相手に問いかけた。)
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