悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
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(彼の言葉は一言一言に芯が篭っている。きっとその言葉で何人の人が救われ光の道を歩んで行ったことだろう。その優しい眼差しに励まされ、背中を押されそんな彼だからこそ自らのためと称し謙虚に一歩引いて物事を捉えるのだろうと。微笑みを浮かべたその顔にはこの状況の異常さも自身に危険が訪れていることさへも微塵も考えていないのだろう。その意味も含めてお人好しと言ったのに。そんな彼だからこそこんなに惚れ込んだわけなのだが、「貴方がいたからこそ俺は、退屈だった日々から抜け出せたわ訳だけど。足りない、足りないんだよね。俺はこんな甘っちょろい関係じゃなくて俺に堕ちた貴方が欲しい訳なんだけど…。今日の所はいいよ、だからさ友人からでもいいからさまた明日も来ていいかな?」今はまだいい、我慢する時だ。すんなりと手に入れてしまったらそれだけの物、時間をかけてじっくりと手間を掛けることでその瞬間にどれ程の高揚感があるのか。その時まで待ち続けるようにしよう、と口角を引きあげた。途端に強ばる彼の表情は先程自分が出した威圧からだろう。コロコロ変わる表情に満足げに微笑めば手に握った黒い宝石を口元へと近ずけて一思いに噛み砕いた。ガリガリと飴玉を噛み砕くように容易く牙を立てながら食したそれはじわじわと口から体内へなんとも言えぬ味わいだが特別不味いというわけでもなく、空腹を訴える腹に一時の満腹感をくれるもの。ゴクリと鳴らした喉、上下した喉仏がそれを全て飲み込んだことを意味する。肌を掠める風に特に思うことは無く蝋燭の消えた音を聞いたのを合図に翼を広げた、一瞬の開放感に真っ暗になった教会に黒い羽根が舞う。相手の服や髪を乱して月の光のみが降り注ぐその場に照らし出された相手の顔にはなんとも言えぬ美しさがあった。「忘れちゃいけない。俺は悪魔だ、この黒いやつの正体なんて言わずにもわかるだろう。これは憎悪、憎しみだよ。人間が誰しも抱えてるもんだ、それを代償にねがいをかなえてやってるんだからな───また明日の夜来るよ。おやすみ神父様。」相手の質問に全て答えていない相手だって聞きたいことなんて山ほどあるに違いない。だが、また明日…その言葉だけがお互いを紡ぐモノになっていた、数枚の黒い羽根を残してそな場から姿を消した。また明日、また明日の夜。会いに来る、とその言葉を残して。)
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