悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
通報 |
(自分の発言に対して、残念だと溢し、また涙目で笑う容姿は人間と似通った部分はあれどあまりにも違う。先程まで自分の腕を絡めていたしなやかな尻尾も、口元から覗く長い舌も、凛々しいながらたわやかな角も漆黒の翼も紅い瞳も…全てが流れるような閑麗さを携えている。ある人は醜いと恐れるかもしれない。しかし自分は人間離れしたそれらがある意味、自分たちより洗練され、より神に近い存在にも思えた。反して、表情や反応は人間と変わりないなと。彼が心の内で考えていることなど知り得るはずもなく、目尻にたまる涙を拭う彼の言葉に小さく首を横に振る。「お人好しなどではありません。私の言葉にすること、成すことは、全て私の意志で自らのために望んでしたことです。誰かに好かれようと思って行いをしている訳ではありませんが…そうですね。貴方がそうして笑ってくださり、惚れたとおっしゃってくださる。少しでも貴方の心を灯せたのなら、それこそ私の意志は浮かばれます。」誂われて馬鹿にされているのかも、とは思った。それでも自分の言動で人が悲しむよりは笑ってプラスの感情を抱いてくれたほうが嬉しい。彼の、秘めた本質の感情にはまだ気づけずに素直に自分のあり方を穏やかな声色で微笑み言う。こうして話していると姿は違えど彼が人ならざる者だと言うことを忘れてしまいそうだった。しかし彼が俄に表情に影を落とし空気が張り詰めれば、自然と聖書を持つ手にわずかだが力が入る。紅い瞳に捉えられ、まるで体までなにかに支配されたように強張って薄く口を結び一度困惑気味に目を逸してしまうが、またすぐに瞳をまっすぐに交えて「──まだ、分かりません。私が貴方をどうしたいか判断するには私は貴方を知らなすぎる。…犯人が貴方だとしても、一方的な視点でこちらが被害者だと言い切ることはできませんし…。」物事の善悪は、世の中の決まりきった物差しでは決めたくない。そもそもどっちが悪い、などは他人が安易に定めていいことではない。だから答えを出すには彼を知る必要があるのだと伝え、自分が彼との契約を断ったらよそへ行くのか続けて問おうとするが、その前に黒い物体を見せられて。瞬時に感じたのは、悪寒。恐らく本能が見たくないと告げた。それでも目を背けてはいけない気がした。禍々しい黒い塊は指でつかめる大きさにも関わらず酷く重たく見え、なぜか胸が痛む。「──それは、なんですか?」触れることは出来ずに、それでも距離を置くことはなく微かに声を震わせて問いかけた。黒い物体から奥の紅い宝石に視線を逃して答えを待つ。その時、窓から強い突風が吹き抜け蝋燭の明かりを消した。)
トピック検索 |