悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
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(何か考える素振りをする様子を黙って見守り、言葉が紡がれるのを待つ。そして告げられた言葉はすぐには理解できずに戸惑い気味に一度ゆっくりと瞬きをして。此方側というのは恐らく彼の、悪魔の世界。ではスカウトとは何だろうと。何かにスカウトされる大それた人間ではないし、悪魔の彼が言うスカウトなのだからただのお呼ばれではないだろう。悪魔は人の魂を食らう、とは良く聞く話。しかし転生の話までは知らなかった。どういうことなのか、なにか昂ぶりを抑え込むような瞳と視線を交えていると耳元で甘く、囁かれる言葉。ある種の麻薬のような、甘美な誘惑にも思えた。一瞬鼓動がとくりと波打つも、脳は至極冴えていて冷静だった。契約とは──ここ最近町を騒がせている、まるで抜け殻のように生気を無くしてしまった町民が多方で続出していて、欲望や憎悪に付け入る悪魔の仕業だという噂…それが関係しているのか。何にしても、彼にお呼ばれされるのであれば、彼の言葉を聞き入れる訳にはいかない。自分にはここでやるべきこと、そして大切な、守るべきものがある。だから『堕ちてきて』と目元から頬に感じるねっとりとした温かな感触に背筋を震わせ、ほんの少し、ほんの一瞬、過去の家族全員で過ごす幸せだった時間が過るも、今根付く確固たる意志が揺らぐことはなかった。「──嫌です。」はっきりと、彼の深紅の瞳に浮かぶ炎を見据えながら幾分声のトーンを落として迷いなく告げる。しかしすぐに表情は穏やかになり腕に絡みつくしなやかな尻尾に恐れなくそっと触れて「貴方が私をスカウトして何をしたいのかは分かりませんが、私にはこの地でやらねばならないことがあります。貴方の元へ行ってはそれが果たせなくなるので困ります。──あの、もしご友人がほしいのでしたら契約など結ばずとも此方へ足を運んでくだされば私で良ければお相手しますよ。…あー、でも他の方々が驚かれるといけないので時間は遅いほうがいいかもしれません。」彼が自分をスカウトする理由はやはり分らずに、自分なりに答えを導き出せば舐められた部分を拭うこともせず一度視線を横に流し真面目に考える仕草をしてすぐに瞳を交えては真摯に答える。しかしふと思う。ここ最近町を騒がす悪魔の噂。その正体が彼ならば、ここで自分が彼の言う契約を断れば他に被害が出てしまうのではないかと。それはそれで心苦しく。「出会ったばかりで失礼なことを聞きますが、最近町で起る物騒なことに、貴方は関係しているのでしょうか」疑うような真似はしたくない。それでも人々に、大切な妹に何かあってはいけない。彼を責めるわけではない。たとえ彼が町の騒動に関係していたとしても彼なりの事情があるはずだから。ただ真実を知らなければ何も判断できなかった。どしても探るような物言いになってしまうことが申し訳なく眉を下げて、ずっと触れていた尻尾から手を離し下ろすことで敵意がないことを伝えられたらと。)
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