悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
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(まさか彼が数日前から自分を見ていたなんて知る由もない。勿論彼を取り巻く事情も苦しめている通達も何も知らない。ただ目の前にいる存在から目を離せなかった。人々は言う。目の前の悪魔という生き物は人の魂を喰らう残虐な存在だと。その知識はあった。それでも彼が歩み寄って来ても後退ることもなく、まるで上階の紳士のような優美な振る舞いをどこか他人事のように見てあまりにも綺麗な深紅の瞳に魅せられる。しかし一つの挨拶をするように手に口付けられては小さく目を瞬かせ「あ…、はじめまして。──人々はあなたのような存在を冷たいと言いますが、口付けは暖かいんですね。」手を取られたまま思わず挨拶を返すと、思ったことをそのまま紡ぐ。“あなたのような存在”と言ったのは彼が悪魔であるとほぼ確信しながらも、悪と決めつけるような呼び方が嫌いだから。ゆっくりと取られた手を返し彼の唇に触れると口元に微笑みを携えて。そして目を合わせたまま「…膝、冷たくないですか?いつまでもそうしていると痛めてしまいますしお立ちになってください」今口にする言葉も問いかけも現状には不釣り合い。しかし紡ぐ言葉には偽りはなく心からのもの。強制はしなくも軽く手を引き立つように促す。それにしてもやはり彼の存在は気になり「こんな時間に何をされていたのですか?」と咎めることはせずに興味深げに問い、その間も赤い双眸をまっすぐに見つめていた。)
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