悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
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(月の高く登る時間、普段ならベッドに入り就寝しているところだが今日は日中から夜にかけてすることが多く時間が押していた。協会の管理はもちろん、礼拝に訪れる人々の懺悔を聞き、また夕方には孤児院に出向き子供たちの世話を手伝い、古びた院内の修復作業もした。そして遅くまで修復の手伝いをしてくれた15になる町の青年を、何が起きるか分らぬ世の中、夜な夜な一人帰らせるわけにもいかないと青年を家まで送り届け、ようやく先程住居である小屋についたところ。手洗いなどを済ませ、明日の仕度でもしようと布製の鞄の中を見てみると、今日子供たちのためにと孤児院に持っていった礼拝者に貸し出すための聖書が。別に礼拝堂に返すのは明朝でも構わないのだが、礼拝に訪れる人々のために貸し出す神聖な聖書を一晩この小屋に置いておくのはどうにも気に掛かり。まもなく日付も超えるが一度気になっては寝付けない性格、聖書を片手に宵闇に出ると礼拝堂(大広間)の扉に手をかけ開けようとする。が、誰もいないはずのこの時間、何を言っているかは聞き取れないがなぜか中から“人”の声がする。小さな町でも物騒な輩はいくらでもいる。しかし金目のものなど一切ないこの教会に盗人が入るとは考えづらい。家出をした子供か迷い人でも紛れ込んだのだろうか。何はともあれ中に入らないことには聖書を棚に戻せない。中の様子を伺うようにゆっくりと扉を開き大広間へと足を踏み入れ、目に止まった存在に一瞬時間が止まった感覚を覚え、静かに息を飲む。本や言伝えでしか知りえなかった、神に背くもの。人々に忌み嫌われ恐怖の対象とされ、どの本もその存在を醜く黒々と悽惨に描かくものばかり。だがしかし、目の前の彼はどうだろう。ステンドグラスに差し込む月明かりにぼんやりと照らしだされる漆黒の髪と翼に透き通るような白い肌。彼の背後にある神を象徴する像が、余計に彼の存在を際立たせる。ひとつの美しい絵画でも見ているようだった。──バタン…、扉が閉まる音にはたと我に返るとしげしげと彼を見る。不思議と恐怖はなかった。「…えっと、道に迷われたのですか?何かお困りでしょうか?あ…礼拝でしたら夜明けの時間になります。」警戒心が全くないわけではない。普段の笑顔こそまだないが、本や言伝えはあくまで人伝だ。彼のことを何も知らないうちに敵意を向くのは可笑しな話。穏やかな物言いで人と接するのと何ら変わりなく話かければ聖書を持ち直しつつ様子を伺って。)
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