悪魔 2018-11-04 19:58:34 |
通報 |
(振りほどかれた手に雪風があたり一層冷たさが増し、彼からの視線に心の奥底を見透かされているようで逸したいのをぐっと堪える。ただ自分の発言が彼を苦しめていることは分かり、でもどうしたらいいのかも分からない。彼から紡がれる言葉の意図が分らず戸惑い気味に彼の名を口にしようとするが、その前に身体を捉えられ低声が響けば背筋がゾワリと慄く。驚く間もなく視界が塞がれ聞き慣れない呪文のあとすぐに掌がどかされれば恐る恐る目を開いて。「──、…レイ?」視界に移ったのは、居るはずのない記憶のままのあどけなさを残した愛しい弟の姿。──あり得ない、だって弟は自分の目の前で死んだのだから。その死も受け入れて乗り越えたはず。なのに、今すぐ手の届く場所に弟はいる。あり得ないことだと理解しながら、この時既に彼の存在は頭に無く、ずっと心のしこりとして残っていた弟の存在に心が支配される。雪に接する膝部分にじわりと冷たさが滲みるが気に留めずに、声を絞り出すようにして弟の名を呼んだ。そしてゆっくり微かに震える手で弟の頬に手を添えると目頭が熱くなるのを堪えてその小さな身体を抱き寄せ腕の中におさめる。醜い争いが奪った罪のない命、守れなかった幼い笑顔──それをまた自分の傍における。また兄弟で暮らせる…。欲がじわりじわりと広がり弟が離れないようにぎゅっと腕に少しだけ力を込める。それなのに、弟の体温は一向に伝わってこない。冷たいまま、あの日抱き寄せた亡骸と同じ。数十秒抱きしめたままでいたが、短く息を吐いて目を閉じると弟を想い頭を撫でた。「ごめんね。ごめん…。──……ごめんなさい、カルマさん。」彼の名前を呼び彼を想った瞬間ずっと堪えていた涙が一筋零れる。自分は自分の弱さのせいでなんてことを彼にさせてしまったのか。確かに弟のように愛しているとは言ったが「弟」を望んでいた訳ではない。「…もうやめてください。こんなことは望んでない。私がほしいのは…愛しているのは貴方です、カルマさん。…弟としてではなく、貴方自身を愛してます。」漸く本心を吐露するも未だ心は揺らぎ恐怖は拭えきれない。弟の姿の彼から身を少し離して目を合わせると眉を下げて微笑み「でも…、怖いんです。これ以上貴方を愛して、貴方を一人にしてしまうことが。」自分は人間だからどうしたって彼より先にこの世を去る。残される苦しみを理解しているから愛する彼を残すことを考えると耐え難く恐ろしかった。「でも、もうこの気持ちを抑えられそうにありません。」彼が外した檻の鍵。檻はこんなに脆かっただろうか。そっと彼に鼻先が触れるほど顔を寄せると「元の姿になって。」と口付けをせがむように囁いた。)
トピック検索 |