ワンルーム・マッドライフ＿〆

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…随分余裕だなァ。自分の立場分かってんのか？
（ㅤ続けられた言葉に沈黙で答えてすぐ、自分を監禁した張本人で有るにも関わらず無遠慮に近付いてきたと思えば核心を探る質問と表情を向けられ喉の奥が小さく震えるのを感じ、まるで全てを見透かされている様な錯覚に陥る生意気な瞳から半ば逃げるように目を伏せ。如何して此方が言い知れぬ恐怖を味わう事になっている？この部屋で相手に声を掛けられた時から頭の隅で鳴っていた警鐘がいよいよ大きく響くのを聞きながら、己の動揺を悟られぬよう努めつつ牽制するように鋭い視線で見つめ直し。ㅤ）



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( 期待していたのは確信をついた時に起きる何だかのリアクション、声を荒らげて否定するなり、手でも上げるなり、何か目に見えて大きなモノが欲しかったが伏せられた視線で凡そ半分くらいは当たりなのではないかと思う事が出来る。それならば、と物心着いた時から生きてきた年月を振り返り誰かに恨みでもと思うが特別これと言って思い浮かぶ出来事もなければ相手が恨みを持っているのは己ではなく己と関わってきた誰か、恐らく近い＿＿家族。どれもこれも推測に過ぎないが全くの間違いという訳でもないような気がするのだから「立場とかどーでもいいンだよ。生き死にに興味ねェし」再び向けられた鋭い視線をあっさりと交わして先程まで座っていた位置へと戻りまた腰を下ろせばひらり、片手を一度閃かせつつ面倒な事になったと監禁されている当事者にも関わらず深い深い溜め息をついて )

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俺ァ…随分厄介な子供を攫っちまったらしいな。
（　予想に反しあっさりと身を引いた相手に心の内でそっと安堵を落とすと先程から被害者らしさの欠片も無いふてぶてしい態度に対し今度はじわじわと苛立ちが湧き上がり、加えてここ数分において極度のストレス状態に置かれたせいか途端にニコチン不足を自覚してしまい感情の赴くまま荒々しげな息と文句を零すと自身の精神衛生を優先し一度部屋から出る事に決め。「手前の荷物は此処には無えが、家の中のモンは好きに使え。…後、仕事遅かったみてェだし飯も出来てる。」扉を開ける直前ぱたりと動きを止めると思い出したように声を掛け、言外に相手に不自由を課す積もりは一切無いと示せば用は済んだとばかりに部屋を後にして。ㅤ）


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( 己が"厄介な子供"である事は自分が一番自覚している。それにこんなものではない事だって。零された文句に特に言葉を返す事もなくさてどうしようかと思案すれば視界には移動を開始する相手の姿が。あぁ、出て行くのかとゆっくりとその後ろ姿を追うも扉が開かれる直前でまたピタリと視線が合わされば果たして紡がれた言葉は耳を疑うようなもので。ぱたんと音を立てて扉が閉まり相手の姿が部屋から消えた後数秒、今度は先程とは意味合いの異なる溜め息を短く吐き出しつつ「＿＿飯って何だよ…。監禁じゃなくて同居人じゃねーか」ここ何年も言われてこなかった言葉が思わぬ所から与えられたむず痒さと拍子抜けした感じにぽつり、独り言のような呟きを落として )

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（　部屋の扉を閉めた瞬間糸が切れた様に身体から力が抜けていき思いの外気を張り続けていたことを自覚するといざ顔を突き合わせたら萎縮していた自身に対する呆れが強く襲い、真っ先に煙草を置いたテーブルへと足を向け一本手に取ると愛用のオイルライターで火を灯し、味わう様に深く息を吐けばすっかり自分の匂いの一部と化してしまった煙はまるで自身を守るように周りを漂って。肺を煙で満たし漠然と満足感を得ていると同じくテーブルの上に置かれているラップの掛かった一人分の料理が目に入り、手持ち無沙汰で作ってしまったものの警戒し口を付けない可能性も有る事に今更思い至れば自分も大概緊張感の無い事をしていたのだな、と思わず一人苦笑零し。ㅤ）


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( 中学生までは学校から帰ればテーブルの上にお金が置いてあった。けれど高校生になりバイトを始めるとそれもなくなり朝から晩まで食事も何もかもを自分の稼いだお金で遣り繰りするようになった、それが寂しいと思う気持ちはもうその頃には無くなっていたが思わぬ温もりに触れると無意識に思い出させられるというもので。相手が部屋を出ていってからたっぷりの時間を置いて立ち上がると何だかんだで張り詰めていた緊張が途切れたのか嫌でも空腹を訴えている体に気が付き、これは仕方が無い。一歩、また一歩と扉に近付き伸ばした片手で徐にノブを捻っては続く部屋へと姿を現し「＿＿飯何処、」無愛想な吐き捨てと共にちらりと視線向けて )

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（　煙草の火を押し消すともう残っていない筈の煙を全て吐き出すかのように再度大きく息を吐いては目の前の椅子に腰を落ち着かせじわじわと痛むこめかみを押さえつつこれからの事に思いを巡らせ。こんな事をして何になる、頭の片隅でそんな自問が過ぎり続け思わず後悔の念を抱きそうになるのを叱咤していると先程出てきた扉がゆっくりと開くのが見え、続く言葉に一瞬驚き目を見開いては考えるように視線を外し「―テーブルの上に置いてある。…味は、保証しねェぞ。」ぶっきらぼうに言葉を投げながらも席を立つと台所に足を向け、小さな鍋に入った一人分の味噌汁を温め始め。ㅤ）



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( 返ってきた返答で視線を相手からテーブルへと移せばラップの掛かったご飯が確かにそこにあり、まるで家族ごっこのようではないかと浮かんだよくわからぬ思考を停止させると同時に無言のまま椅子へと座り。毒を盛るならもっとマシな方法を選ぶだろう。台所へと姿を消したその様子を気配で感じつつ掛けてあったラップを剥がし一先ずぐしゃぐしゃと丸めて皿の横へ。それから備え付けられていた箸を片手にご飯を口に運べばそれはいつも食べているコンビニの弁当とは違い本当の手作りの味がして。「＿＿何がしてーンだか」胸の奥の奥にふつ、と浮かんだむず痒い感情に蓋をするように独り言を呟けば後は無言で空腹に抗う事もせず黙々と食べ進めていき )

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（　ある程度火にかけた後はお椀に移しコップに入れたお茶と共に相手の目の前に置いてやると一拍迷いを見せた後向かいの席に座れば作った料理を他人が食べる機会など今までに有る筈も無く途端に落ち着かない気持ちになりながら少しずつ胃の中に消えていく料理を眺め。矢張り人は空腹には勝てないものなのだろうか、もう少し警戒の色を見せるかと思いきや大人しく出された料理を食べる様は先程よりも幾分か幼く見える気がして、「…手前、逃げる気は無いのか。」相手からこの状況を打破する為の必死さがどうにも感じられず横目で様子を伺いながら静かに問うて。ㅤ）


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( これで例えば睡眠薬なり毒なりが入っていたとしても構わない。例えそうなったとして親は家出か何かだと気にも止めないだろうし何年も経てばまた新しいニュースに溢れて何もかもさっぱり消えるのだから。白米とおかずを頬張りごくんと喉を鳴らして飲み込んだそのタイミングで味噌汁とお茶が来れば湯気の立つそれを一口飲み、反射的に漏れる溜め息を。それにしても不思議な事を聞くものだ。目の前に腰を下ろした相手よりこの状況を不可思議とする疑問が投げ掛けられれば茶碗に向けていた視線をちらりと向け直し「…逆に聞くけど、俺を捕まえておく気あンの？」拘束する事もしない、部屋に鍵を掛ける訳でもない、ましてやご飯まで振る舞う。それでよくそんな事が聞けたなと暗に含ませた答えのない問い掛けをして )

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別に、逃げられて困る事も無いしなァ…。
（　 相手が言わんとする事はあまりにもご最も、今の自分達はその何方もが加害者と被害者という関係における“普通”からは遠く掛け離れていると言えよう。枷の無い名前だけの監禁、それは自身にとってその名前さえ有れば充分であり逃げられた後第三者に被害を訴えられたとしても不都合は無く。一度転落した人生を今更やり直す気力も理由も無いならばこの先を檻の中で過ごそうがこの部屋で無意味に時間を浪費しようがそこに大差は感じられ無いように思い。この行為は復讐であり、過去を引きずりみっともない道を進み続けた自分への罰を意味するのであろう、濁った瞳を遠くへ投げては「手前の面が気に入らなかった、攫った理由だってそんなモンだ。」冗談めかして告げるとくつり、喉の奥を鳴らし。ㅤ）


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( 監禁したのに逃げられて困る事も無いとは全くもって意味がわからない。怪訝そうに眉を顰めその本意を理解しようと考えを巡らせるも、そこで自らと同じく相手もまた何かに"諦めて"いるような雰囲気を察すれば続けられた冗談めいた言葉に「奇遇だね、俺も俺の面好きじゃねェよ」と肩を竦め。そうして「じゃあ＿＿」と言葉を続けるや否や、勢い良く立ち上がり相手の横に移動。あろう事か持っていた箸の先端を喉元に突き付け「俺が今ここでアンタを殺※して逃げても問題ないネ」本気なのか冗談なのかわからぬ声色で以てそう言葉にしつつ箸を握る手に力を込めて )

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（　突如椅子と床が大きく擦れる音が辺りを震わせる。相手が食事中である事も重なってか部屋で言葉を交わしていた時に比べれば幾分か肩の力が抜けてきた矢先、状況を理解する間も与えられぬまま相手から物騒な提案と喉に食い込む小さな圧迫を突きつけられ。これまでなるだけ感情の揺れを表に出さぬよう努めて来たがこれには思わず目を大きく見開くと動揺を顕に見せ、追い打ちを掛けるように喉骨を的確な力で押されれば自身の声帯から洩れる呻き声が耳に入り同時に戯れ等では済まされぬ直接的な苦しさが身体を襲い。「ッ……そりゃ、魅力的なお誘い、どーも。」 生命の危機に陥った時少なくとも自身は多少頭が冷える性質らしい、途切れ途切れに言葉を紡ぎしっかりとその双眸を見据えるとまたその顔に奴の影が重なり鮮明に“あの時”の記憶が蘇る。脳味噌がぐらりと揺れる様な感覚と沸き上がる嫌悪に任せ少し強めにその手首を掴むと「…流石に二度も殺される訳にはいかねェな。」と地を這うような声で小さく吐き捨て。　）



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( ここまでしなくたって逃げようと思えば逃げられた。何せ手錠も着いていないしきっと鍵だって簡単に開けられる。ドクン、ドクンとやけに強く脈打つ心臓の鼓動が皮膚を伝い、熱い血の動きが脈を通して伝わり満月でもないのに抑えきれない残虐性が顔を覗かせる。このまま後少し力を込めたら＿＿と、そんな感情がゆうらりと現れ始めた丁度その時強い力で以てその腕を掴まれればまるで我に返ったかのように一度ぱちりと瞬きをして「…俺の記憶ではアンタと会ったのは今日が初めてなんだケド」言葉の意味を理解するまで数秒。出会った事は愚か、殺害を目論んだ事等記憶にはなくはていつの話をしているのだと訝しげにその瞳を見やって )

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気にすんな、此方の話だ。
（ㅤ一瞬、目の前の少年は嫌に見覚えのある顔をしていた。他人の不幸を蜜とし飴と鞭を器用に使い分ける天性の才能を持った男が瞳に宿していた鈍い光を少年の中に認め身体は恐怖を訴えていたが、元来の短気な性格故か突発的な苛立ちの方が強い感情として先行し、此方の恨み言に目を丸くするその表情を見ると釣られて怒りに飲み込まれていた自身が目を覚まして。途端に顔を青くすると想像以上に強い力で掴んでいた手を勢いよく離し、必要以上の酷い暴力を振るっていなかった事に心底安堵して無意識に短くなっていた呼吸を整えるべく大きく息を吐くと「…此方の話だ、気にすんな。」言ってバツが悪そうに目線逸らし。ㅤ）


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＿＿俺の荷物何処。携帯とか入ってンだけど。
( 気なするなと言われてはいそうですか、とは気持ち的に全くならないが従来の積み重なった諦めや淡白な部分がそれ以上の追求を良しとしなければ強く掴まれていた事によりドクドクと脈打つ手首に少しばかりの気を掛けすぐにそれを止めて、元座っていた椅子へと腰を下ろしてはまるで何事もなかったかのように再び食事を初め、途中、そう言えばと言わんばかりの問い掛けを。それにしたって人の作るご飯は久しぶりだ。空腹だった事も相まってそれから数分のうちに全てを平らげては取り敢えず「ご馳走様」との挨拶を一言添え、さてこれからどうしようか )

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あ？そういや、玄関に置きっぱなしかもな。
（　非力とは到底言い難い体型をしているとは言え18の男を運び込むのは骨が折れる作業だった、記憶を辿れば彼が持っていた荷物も一緒に持ってきては居たが部屋に運び込む際に足元に置いてからはそれきりだったように思い。目の前で自身の作った料理を綺麗に消費してもらえれば此方も悪い気はせず「…他人に飯振る舞う事が有るとはなァ、」誰に言うでもなく有り得ないことでも起こったかの様な声色で呟くと洗うべき食器を纏め台所へと置きに行き、途中でふと相手の手首に痣が残る可能性に思い至れば冷凍庫から一つ保冷剤を取り出しハンカチで丁寧に包み「―冷やしとけ。」と不器用に差し出し、謝罪こそする積もりは無いが幾分か反省はしているようで。ㅤ）



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( 玄関と言う事は己を運んだ時に一緒に運ばれたのがそのままなのだろう。荷物を取って逃げてくださいとでも言わんばかりのその場所と状況に最早苦笑いが浮かぶ程で。「取ってくる」と一声掛けて立ち上がったその時、台所から戻って来た相手に保冷剤をわたされればぱちくりと一度の瞬きを。先に酷い事をしたのは此方でその事について全く罪悪感等持ち合わせていないと言うのに、これでは酷く悪い事をした気持ちになる。「…いらね」ふい、とそっぽを向き保冷剤を受け取る事をしなければ足早に部屋を出て玄関へと向かい。無造作に投げ捨てられた鞄を確認して溜め息を。とまったボタンの隙間から見えたスマホを認識して視線を持ち上げれば鍵のかかっていないドア、やれやれ本当に監禁されている気がしない。少しの沈黙を以て再びリビングへと戻れば先程座っていた椅子へとまた座り直し「監禁って言葉辞書で調べた方がいいヨ」と吐き捨てて )

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（　受け取ることを拒否されてしまえば上げた手はやり場無く宙に泳ぎ、もう片の手でぐしゃりと髪を掻き混ぜると子供を持つ世の親は皆苦労しているのだろうな、等と見当違いな思考を巡らせ。不必要だと言われてしまえば為す術有る筈も無くそれ以上何も言葉を重ねず鞄を取りに行く為玄関へ向かう背中を見送り、食事中だからと控えていたが受動喫煙に寄る健康状態を気遣う頭は無いらしく一本煙草を取り出すと火を点け始め。戻ってきた相手に監禁として成立していないと暗に指摘されてしまい自身の行動を振り返ってはあくまで全ての言動は逃げられる事を前提に置いていた物であり、ところが当の被害者が平然とその様子を見せないのだから余計此方が間抜けに見えているのであろうという結論に。とは言え流石に思う所が有ったのか眉間に皺を寄せ一拍思案した後「…手前こそ、誘拐監禁の被害者なら必死こいて逃げるモンじゃねェのかよ」どうにも納得のいかない様子でこれまた些か見当違いに逃げぬ相手を咎める始末で。ㅤ）


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それは命の危険があるって判断した時だろ。
( 部屋に戻って来た途端にまず目に付くのはモクモクと煙を上げる煙草で、一言断れだとか違う部屋で吸えだとか監禁されている分際で言うつもりは毛頭無いが反射的に嫌そうに眉を顰め。吐き捨てた言葉に対する返事はまた他者から聞いたら些か返答違いだと指摘されるかもしれぬがごもっともと思わざるを得ないものであり、あくまで強気な自論を。それから徐に立ち上がると両手を大きく広げ役者宛らの身振り手振りを以てして「どぉ？俺死にそう？」と最早挑発ととられてもおかしくはない言葉を続けて )