助手 2018-05-23 21:25:11 |
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(溺れかけながらも、2人のやり取りははっきりと水槽の中に響いていた。水の占める割合が高くなっているせいで、反響は小さくなったが、音はクリアだった。パンドラの箱、自分が彼に電話を掛けた時に口にしたそれがあの爆弾のことだなんて思いもしなかった。そしてその箱は水の中、水槽の底に沈んでいる。あれを取るにはどう考えても水に潜る以外に方法はない。今の状況とは違い思考は冷静でやるべきことを順序立てて考えることができていたが、意識が朦朧としつつもあった。水を飲み込む頻度が増えている、水がいよいよ口を覆おうとしているのだ。彼はレストレードの名前を呼んだ、その緊迫した声を聞いて少しだけ笑った。この探偵は本当に用意の良い、勘の冴える男なのだ。これが、自分がこの世で一番信頼を寄せる、愛すべき男なのだ。そして、こちらの勝ちを確信した。息を吸え、と彼は叫んだ。水槽の中に潜るなんて真っ平御免だった。そもそも既に体力はゼロに近かったし、トラウマを引き出され逃れられない状況で恐怖のバロメーターは振り切れてしまっていた。しかし、彼さえ居れば仕方ない、やってやろう、という気になるのだ。「絶対に嫌だ、」と浅い息で答えたが、その言葉とは裏腹に覚悟を決めていた。これで死ぬのならそれは仕方がない、水面に顔を出していたって数分足らずで溺れるだろう。何で自分がこんな目に遭うのか、と一瞬考えたがどう考えても探偵のせいで、しかし探偵に出逢わなければ良かったとは、1mm足りとも思わないのだった。そう、探偵はそういう奴なのだ。すぐに厄介ごとを持ち込んで、自分を巻き込む。そういう、仕方のない奴なのだ。呆れたように少しだけ笑って、大きく息を吸い込んだ。)
──本当に、仕方のない奴だな、君は。
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