助手 2018-05-23 21:25:11 |
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(薬のせいかまだ視界はふらふらと揺らいでいたが、目を覚まし男の声に身体を起こすとジャラリ、と重たい鎖の音がした。その上、凍えるように寒く爪先や指の先も冷えてしまっていた。暗く広い、それでいて出口の分からない水槽。分厚いガラスのせいで、外に立つ男の顔さえ歪んで顔までははっきりと見えなかった。寒さのせいだけではない嫌な寒気が背中を這い上がる。当然水が抜かれている水槽には魚などいるはずはないが、青いライトが男の背景に揺らいでいた。このガラスの分厚さからすると、水深の深いところに棲む魚を入れる水槽なのだろう。深海魚は嫌いだ、あの不気味な顔は直視できない。その上、自分は水が大嫌いだ。水槽の中、その上出入り口がどこかなど検討もつかないし、水が入ってきたら絶望的、鎖が付いているせいで逃げ出すこともできない。広いが閉鎖された空間、水槽の構造のせいで外の音も聞こえない。そんな空間に1人取り残されているこの状況はあまりに恐ろしい、あまりに苦手な状況だ。探偵を呼ぶべきではないことは分かっていた、変な恨みを抱いた男などと対峙させるべきではない、しかしこの状況で頼れるのは彼しかいなかった。あまりに何の音もしないこの閉鎖空間で、彼の声を聞く以外に自分を安心させる術も無かった。男に言われるがままにスマートフォンを開く、帰りが遅いことを心配したのであろう探偵からの着信が溜まっていた。震える指先で画面に触れ、スピーカーにして相手に発信した。寒い、怖い、一刻も早く彼の声が聞きたかった。唇から吐き出す息が震えた。)
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