赤の女王 2018-03-04 13:31:36 |
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あんまり待ちくたびれたら、こっちからドアを叩きに来ちゃうから!(相手が楽しげな笑い声を上げながらこちらの誘いに乗ってくれることがとても嬉しくて、両手でしっかりと帽子屋の手を握り締めて。「約束してたわけじゃないの。ただ、アノコの お気に入り を預かってるから。……でもま、寝てるなら無くても支障無いだろうし、のんびり待ってるわよ」叩き起こすという相手の言葉にケタケタ笑いながらも、問題ないと言うように首を横に振った。__扉を開けて入ってきた相手に背を向けると、片方の肩に掛けて避けていただけの髪を軽く抑えられながらファスナーが上げられる。さっき手を握っていた時にも思ったけれど、髪越しに触れる骨張った手の形は、細身だけれど男性特有のものだった。今更どこか恥ずかしさを感じて俯くが、相手の慣れた手つきはやはり仕立て屋としての仕事の動きだということを感じさせられる。なんの動揺もしない相手が纏う空気は穏やかで落ち着いていて、姉が居たらこんなだっただろうかと思わされる。「すごい……! トルソーに飾られてる時も思ったけど、しっかりフィットしてるのに柔らかくて、シンプルなのにしっかり存在感があって……」ファスナーを上げてもらった礼を言うのも飛んでしまうほど、鏡に映った自分の姿は素敵だった。常に美しく、存在感のある人でありたい。そう思って着飾っていたけれど、このドレスの前ではそんな努力は不要だと言われているようだった。更に胸元に添えられたコサージュは、美しさと華やかさを与えてくれた。「こんなに素敵な仕事があるなんてね。夢でも見てるみたいだわ」ただでさえ未知の出来事が起きているこの国で、ただ素敵なドレスを身につけることの方が夢のように感じられるなんて。鏡を見ながらくるりと回ってみたり、レースの手触りを楽しむように触れてみたりとドレスを堪能し。「ねぇ、作った服はどこかの店に出してたりしないの?」ここへ来てから、服は城のメイドに用意してもらったものか自分が最初に身に付けていたワンピースくらいしか持っていなかった。もし、こんなに素敵なドレスを仕立てる帽子屋の服を普段着として着ることができるなら、嫌いな仕事だって頑張れるような気がする。鏡越しに相手の顔を見つめながらそんな問いを投げ掛けて)
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