赤の女王 2018-03-04 13:31:36 |
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(針なんて自分で気を付けられるのに。気を遣ってくれていることは分かるけれど、それが子供扱いされているように感じて不満げに口を尖らせた。とは言え、ここで意地を張ることこそお子ちゃまのやることだ。今は相手が求めてくれていることに精一杯応えよう、とそれ以上は留めておき。「分かるわ……! 使わない化粧品ってどんどん溜まっていくし、かと言って捨てられないから困るのよね。今度、オススメのショップがあったら連れて行ってよ!」まるで女友達と会話しているような溌剌とした声で、相手の言葉に何度も頷きながら答える。元の国ではこんな風に話せる同性の友達も居なかったから、楽しくて仕方がない。あんなに素敵な化粧品をどこで買っているのか、どんな風にそれを選ぶのか間近で見てみたくて、ねだるように帽子屋の手をぎゅっと握りその顔を見つめて。「楽しかったって? うーん、迷惑をかけてた記憶しかないわ。たまに引っ叩いたり抓ったりしてたから眠くならなかったんじゃない?」相手の言葉でよみがえる初日の記憶。おぶらせたり、喚いたり、叩いたり、我ながら好き放題にやっていたものだと思う。それも、初対面の相手に。「やだ、冬眠? 迎えに来いって言ってたのに来ないのはそーいうワケね」そういえば、帽子を取った相手の頭にはちょこんと小さな耳があった。コスプレの類いかと思ったが、冬眠ということは本当に動物なんだろうか。この国へ来て数日が経ったので、そんな不思議があってもそうそう驚かないようになってしまった。部屋を去る相手にぶんぶんと手を振って見せてから、トルソーが身に付けているドレスへ視線を向ける。シンプルなデザインなのに、どれだけ見ていても飽きがこない。柔らかな素材を一撫でしてから、着ていたワンピースを脱いで椅子の背にかける。ドレスはまるで自分の体を採寸して作られたかのように体にしっとりと張り付き、無駄なく美しく魅せてくれるようだった。「ねぇ、帽子屋! 背中が閉められない!」はたと気がついたのは仕上げ作業。いつも着ているワンピースは決して体が柔らかいとは言えない自分のために、そのまますっぽりと着られるタイプを選んでいたけれど、これはそうもいかない。自分でできる限りどうにかしたものの、最後の仕上げを頼むべく扉の向こうへ声をかけ)
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