ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
通報 |
神父は責任の重みで耐えかねた看護師を抱えてベッドに寝かせ、女の時と同じように毛布をかけた。
「なぁ神父さん。ウチ等これからどうすんの~?先生等は行ってしもたし~、看護婦さんはダウンしたし~。」
「どうしたものでしょうなぁ・・・。わたくしたちは医療行為はできませんから、先生のお帰りを待つか、看護婦さんが目を覚ますのを待つか・・・。」
「あ、そや!他の病棟から医者とか看護婦とか呼んだらええやん!内線もつながるみたいやし!」
神父は女1を暖かく諭すように答えた。
「ここは感染症隔離病棟なんです。他の科のお医者さんを呼んでも、感染を恐れて誰も来てくれそうに思えません。」
「でもさぁ~エイズって、空気感染はせえへんのやろ!?それやったら、ひっつかへんように助けてくれてもええやん!」
「わたくしもそのように思うのですが、HIVに関する誤解は未だ解けていないのが実情です。だから先生は『常駐勤務医』、つまり『この病棟からは一歩も外に出ない医師』なんです。」
「ふ~ん、そっかぁ。」
女1は、紹介状を持って来たときに、他の大勢の患者とは違う通路を通って感染症隔離病棟に来たことを思い出した。
2時間ほど経っただろうか。看護師は目を覚ましたが疲労の蓄積により体が思うように動かないため、そのまま再び目を閉じて、神父と女1の会話に聞き入っていた。
「神父さん。大体ゾンビなんて、どこから何で出てきたん?エイズと何か関係あんのん?」
「さぁ・・・わたくしも存じませんが・・・。ただ・・・。」
「何なん?」
神父は聖書をひもといた。
「聖書の時代にも男同士で性行為をしていたことを示す記録がありましてね。使徒パウロは『男と寝てはならない』とか『男娼となってはならない』など、当時の信者を戒める手紙をいくつか残しております。神殿男娼と言いましてね、ローマ帝国の時代は、お金と引き替えに、男性客に性行為を売る男がいたようです。」
「援交の男版かぁ・・・。」
「当時は貞操観念が厳しく、夫の留守中に妻が不貞、まあ浮気ですよ、をしないよう、女性は貞操帯と呼ばれる鍵付きの下着を着けさせらていたようです。博物館に行けば、当時の現物もあるそうです。」
「ぇえ!?えっちさせないようにって鍵付きパンティー!?」
「ええ。しかも金属製です。当時はコンドームなどありませんから。しかし男の情欲というものは、満たされないとなるとさらに増長するのがいつの世も常でして、男が男を買う、という神様の定めに背いた行為も当たり前にありました。エイズが問題視された1980年代は、男性同士の性行為がエイズの原因と言われていましたが、エイズはHIVウィルスに原因があることは誰もが知る通りです。」
「ん~ほな、HIVウィルスはどこから来たん?」
「それが問題なのです。ローマ帝国の時代に比べれば1980年代は貞操観念の垣根が低くなっていたはずなのに、なぜHIVウィルスが爆発的に拡がったのか?、分からないのです。」
「ん~ウチが処女捨てたんも高1ん時やったし・・・中退して18からこのおシゴトしてるけど、ウチのお客は彼女おらへん男だけやなくて、新婚さんも来るし・・・。」
看護師は薄目を開けて大阪の女をにらんだ。自分の妊娠中の夫の風俗遊びが原因で自分も感染症隔離病棟にいるのだから無理もない。しかし神父たちに悟られぬよう、息を殺して聞き耳を続けた。
神父は続ける。
「これは噂でしかないのですが、そのHIVウィルスの存在理由を、この医科大学の極秘研究チームが突き止めたらしいのです。」
「ウチ等がここにいるのは、それを確かめるためなん?」
「エイズでこの病院への紹介状を書いた医師は、今住んでいるところは違っても、皆この医科大学を卒業し、この病院のある特定の研究室に在籍した経験のある医師ばかりです。」
ベッドに寝たままの看護師の眼がカッと開いた。
『主人はこの病院の何かを隠している。』
トピック検索 |