ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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夜が明けた。レクサスのキーを受け取った茜はおどおどしながら運転席に乗り込むと悟に言われたとおりにハンドルを握った。すると茜の頭の中でピンと緊張が走り、無意識のままにキーを差し込んでエンジンをかけた。悟はその様子を後ろのシートで見ている。
「どうだい?言ったとおり『運転アプリ』が起動しただろ?」
「う、うん。本当に運転したことないのに体が勝手に・・・。」
「すぐ慣れるさ。さあ行こうぜ!」
「でも、道が分からないよ・・・。」
「デパートの駐車場を出てすぐ左に曲がれ。そこで俺が指示を出す。」
「わ、分かった。」
茜はレクサスのアクセルを踏んだ。初めて車を運転するのに、もう何年も乗りこなしたかのようなハンドルさばきだ。悟に言われたとおりに駐車場を出て左に曲がると悟は
「北陸自動車道のインターチェンジへ向かい、大阪方面行き車線に入れ。」
と指示を出した。茜は
「きゅ、急にそんなこと言われたってどこへ・・・。」
と言い切らぬうちに茜はレクサスのカーナビを操作しルートを検索し始めていた。向かう先は新潟西インターチェンジだ。
「ちょ、ちょっと!どうなってるの?体が勝手に・・・。」
「『運転アプリ』のルート検索モードだ。茜さんの中の検索エンジンと運転アプリが連動してカーナビの操作をしている。後は茜さんの2つのバイオカメラとバイオマイク・・・まぁ、『目と耳』がカーナビの指示を聞きながら状況を判断しアプリが体を操作し勝手に運転する。試しにアクセルを踏みながら後ろを振り向いてみな!」
茜は言われたとおりに後ろを振り向こうとしたが、体も首も回らない。
「振り向けないだろ?『自動危険運転回避プログラム』が常によそ見運転を監視して、事故らないようになっているんだ。例外もあるけどな。」
「『例外』って、あのゾンビをはねた時みたいな?」
「・・・俺の中ではゾンビは人間と見なさない。だから『例外』としてはね飛ばした。」
車は新潟西インターチェンジに近づいた。
「悟さん。」
「何だい?」
「私たち、本当に中国に行くの?」
「・・・先生たちのことが気になるんだろ?」
「う、うん。」
「俺も同じさ。だが中国へ行かないと俺たち以外のHWのことも分からない。分かっているのはHWは俺たちだけじゃないってことさ。」
「それって・・・、先生が言ってた『量産型』のことなの?」
「かもな。俺たちが上海へ行く理由は・・・俺の中に『もし中国へ行く機会があったら上海のホテルで指令を待て』とインストールされているからだ。『指令』が出る前に俺たちの秘密を突き止められれば先生たちだけでなく、世界を戦争から救えるかも知れない。それに・・・。」
「それに・・・?なんなの?」
「・・・俺は・・・。」
悟はうつむいて深呼吸し、バックミラー越しに茜の目を見た。
「・・・茜さんが好きなんだ。」
茜は車を左に寄せて停めた。
「俺たちHWには、恋愛は認められていても結婚は認められていない。だったら、『指令』が出て”人間兵器”になる前に、君と少しでも長く一緒にいたいんだ。」
「わ、私だって、悟さんが好き。でも・・・。」
「でも・・・?」
悟は不安になった。
「先生たちの病院はゾンビに囲まれてるのよ!先生たちを置いて行けないわ!」
「・・・そうか。そういうと思ったよ。昔のアクション映画ならここで君を殴って気絶させて無理矢理連れて行くところだがそれはHW相互支援法の趣旨に反する。分かった。君の言うとおり、病院へ戻ろう。だが車では戻らない。」
「どうやって病院に戻るの?」
悟は少し考えた後、茜に指示を出した。
「新潟空港へ向かえ!そこでヘリを拝借して空から病院へ戻る。」
茜の左手の人差し指はカーナビのタッチパネルを操作して新潟空港へのルートを検索していた。
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