ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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「あの2人、遅いわねぇ・・・。」
遼子は眠気をインスタントコーヒーでごまかしながらつぶやいた。遼子はゾンビに噛まれたオトコの細胞組織のサンプルを採取しゾンビ対策のヒントを得たいのだ。茜と悟がいない今、自分達の身は自分達で守らねばならない。そのためにもサンプルは必要なのだ。看護師である川崎の妻は遼子の後ろから声をかけた。
「・・・あの、先生。少しよろしいでしょうか?」
「ああいいよ。何なの?」
「主人が言っていたんですけど、ゾンビはAKというウィルスからきていると。先生は知っていたんですか?」
「知ってたわ。あたいがこの病院で研究してたんだから。」
「ぇえ!じゃあ、極秘研究グループって・・・。」
「あたいも元そのグループの1人よ。AKに関する極秘研究員だった。」
「だったら対処法が分かるはず・・・すみません、失礼しました。」
「気にしなくて良いわ。実際分からないからあたいが研究してたんだし。ところでご主人は・・・?」
「さあ・・・。先程までここにいたのですが、神父さんもいなくなっておりまして・・・。」
「そう。医事課総合主任さんだから入って良いところといけないところぐらい分かるはずだからまぁいいわ。ところでご主人さんはAKについて他に何か言ってた?」
「それ以外は特に・・・。」
「じゃあ、世界で初めてAKウィルスを発見したのは誰だか話してないのね。」
「はい。先生、誰なんです?」
遼子はため息を1つついた。
「・・・あたいの父方のじいちゃんよ。」
「ぇえ!?」
「AKウィルスはあたいのじいちゃんがヨーロッパでの研究旅行で偶然発見したんだけど、じいちゃんは元々欲のない人で早速エイズ治療への応用をしようとした。しかしじいちゃんが開業してた小さな診療所では研究資金もない。そこへアメリカ政府がこの研究に目を付けて、発見と研究開発の権利をじいちゃんから買い取ったの。そのお金であたいのオヤジはじいちゃんの診療所を大きくして、今じゃ地元の大病院よ。あたいはオヤジもおふくろも医者だから医者になる以外に選択肢はなかった。あたいは金儲けのことばかり考えるオヤジやおふくろより、無邪気に実験や研究のことを話してくれたじいちゃんの方が好きだったから、どうせ医者になるんならオヤジよりじいちゃんの後を継ぎたくてこの新潟第一医科大学に入学したの。オヤジもおふくろもあたいが性同一性障害を持っていることを認めてくれなかったけど、美容整形のための韓国での費用やこの医科大学の学費をオヤジが出してくれたんだから、オヤジを悪く言うのはバチ当たりだけどね。」
「でも先生、アメリカ政府が買い取った研究開発がこの病院にあることを、受験生だった先生が何で知ってたんですか?」
「オヤジのコネよ。オヤジはカネだけでなく日米両政府の要人へのコネもあった。オヤジがじいちゃんの名前を出したら文部科学省の偉いさんが簡単に教えてくれたらしい。オヤジにしてみれば世間に顔向けできないオカマ息子を遠くへやるのに都合がよかったし、あたいもじいちゃんの後を引き継げるんだから、あたいもオヤジもこの医科大学に進学することに異論はなかった。」
「カレシさんの話だと、『先生は高校生時代、成績が良かった』と・・・。」
「新潟第一医科大学の入試偏差値は60程度だけど、東大や京大、慶応の医学部に比べると確かに三流よ。でもよく考えてみて。こんなへんぴな片田舎にできた私立の医科大学の附属病院だけが何故世界有数の大規模病院なのかしら?」
「さあ・・・?」
「日本政府が『思いやり予算』として米軍に提供してきた税金の一部が裏金になってこの病院の経営を支えてるからよ。あたいの研究予算もね。」
「米軍からの裏金?て、ことは・・・。」
「この病院は米軍の軍事研究にも荷担している。研究が『極秘』なのはそのためよ。」
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