ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
通報 |
「じゃあ、酸素ボンベの交換手順を説明してくれないか。」
「まず、空のボンベのバルブを右いっぱいに回して閉める。次に供給チューブのナットをゆるめてはずす。そん次は・・・。」
オトコはガス棟の上を見上げた。
「上の天井走行クレーンで空のボンベを吊り上げてトラックの荷台に降ろし、酸素充填済のボンベを吊り上げて空のボンベの位置に降ろす。あそこにぶら下がっている操作ボタンのスイッチを押せばON、離せばOFFだからお前にもできる。次は逆に、供給チューブをつないでナット締め、バルブを少し左に回して酸素の漏れがないかを確認してOKならバルブを左いっぱいに回して開ける。チューブは俺がやるからお前はバルブの開け閉めとクレーンだ。」
「それをA側全部やるのか?」
「そういうこった。1本ずつな。」
オトコとカレシは酸素ボンベの交換に取りかかった。オトコは慣れた手つきでナットをゆるめるレンチを持ってチューブの取り外しや取り付けを進めたが、バルブの開け閉めとクレーンを担当する彼氏は不慣れで、思うように進まない。
「おいおい、もうちょっと落ち着いてやれよ。ボンベで手を挟んじまうぜ。」とボヤくオトコ。
「すまない。スイッチ操作で動くと言ってもなかなかコツがいるもんだな。」と謝るカレシ。
2人の作業を見ていたNICUの看護師は
「ゾンビになって死んだガス屋のドライバーさんやったら1人でやるんやけどな。」
とオトコ同様にボヤく。
「看護婦さん。こっちだって一生懸命やってるんですよ。そんなこと言わなくたって・・・。」
「危ねーからスイッチ押したままよそ見するなバカ!どこの大学出たんだよ、ったく・・・。」
「す、す、すまない。」
カレシはオトコとNICUの看護師の両方にボヤかれてシュンとなった。漫才のようなデコボココンビだがこれでもうまくいっているから不思議だ。カレシはバルブの開け閉めとクレーン操作だけだが腕の力だけでレンチを回すオトコは疲れが回ってきた。
「あちっ!しまった!」というオトコの声と共にカラーンという音がガス棟に響いた。
「どうしたんだ?」とカレシ。
「腕が疲れてきて、レンチをおっことしちまった。ボンベの置き方が悪いから隙間が狭くて手が届かねぇ。予備のレンチあるか?」
「待ってくれ。うーん、同じものはないなぁ。モンキーレンチなら1本ある。」
「モンキーでいい。貸してくれ。」
オトコはモンキーレンチで作業を続行した。しかし最後のナットを締め終わった時に、今度は手に溜まった汗でモンキーレンチも落としてしまい、モンキーレンチは黄色のペンキで”オクナ!”と書かれた隅っこのエリアまで転がっていった。ガス棟にはカラーンという音が響いた後にゴローンという反響音まで響かせた。オトコは仕事をやり終えてはぁはぁ言いながら
「おい!今の音、聞いたか?」
尋ねた。
「ああ、聞いた」「おらも聞いたべ」。
「看護婦さん。あそこの”オクナ!”という注意書きは何のためですか?」
「おらも定年退職して辞めてった主任看護師から『「オクナ!」と書いてあるところには何も置くな』って聞いただけでぇ~、何も知らんのじゃが、今の音は確かに空洞がある印の反響音だべ。」
3人はオクナ!と書かれた隅っこのエリアに近づいた。オトコがモンキーレンチを拾い上げオの字をモンキーレンチで思いっきり叩くと今度はゴーンという音が響いた。
「ここだけコンクリートじゃない。鉄板のフタだ。ここに取っ手がある。」とカレシ。
NICUの看護師は後ろに下がるとトラックから電動のハンマーレンチを持ってきた。
「ほれ。これで四隅の錆びたナットを回しんしゃい。」
「『フタを開けたらゾンビがどどーん』な~んて?」ととふざけるカレシ。
「オメー!電動ハンマーレンチで鼻ひん曲げるぞ!」。カレシはまたシュンとなった。
電動ハンマーレンチでナットは外せたものの、肝心のフタは男2人がかりでも重くて持ち上がらない。
「アレで持ち上げたらよか。」とNICUの看護師は天井を指さした。
アレ。すなわち天井走行クレーンだ。なるほどと合点した男2人は早速準備をし、フタを開けた。フタの下にあったのは、階段と地下通路だ。NICUの看護師はつぶやいた。
「この地下通路だと、行き先は病院の外だべ。」
トピック検索 |