ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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悟は黙ったままハンドルを握りアクセルを踏んでいる。午前10時の太陽はゾンビを真っ暗なビルの中に押し込んだ。こちらに向かってくるゾンビは見当たらない。
「先生。生物兵器って、炭疽菌(たんそきん)とか天然痘(てんねんとう)とか、細菌やウィルスみたいな『目に見えない兵器』のことじゃないの?なんで茜さんや悟が『究極の生物兵器』なの?」
「生きてるからよ。」
茜は黙ったまま空になったトカレフのマガジンを外し、予備のマガジンを差し込んで車の周囲を見ながら空になったマガジンに再装填していた。”女医”は続ける。
「炭疽菌や天然痘みたいなウィルス兵器、それに昔あった新興宗教オウム真理教がテロリズムに使ったサリンや北朝鮮の指導者の兄の殺害に使われたVXなんかの化学兵器は、それを取り扱う側も高度な専門知識や技術が必要だしお金もかかる。しかしHWは普通の人間のごく一部の細胞とiPS細胞だけで造った『目に見える生物兵器』で、それこそターミネーターと同じ。あらゆる武器を使いながら『任務を遂行するためだけに造られた兵器』よ。」
「でも、やっぱり人間なんでしょ?」
「『人間とほとんど同じ』ってだけで、人間じゃないわ。人間と同じように成長するし、食事もすれば水も飲む。ウンコもオシッコもオナラもするし、風邪をひくこともあれば頭痛も起こす。この2人みたいに思春期になれば恋もする。当然年も取るし、時期が来ればやがて死ぬ。でも『兵器は兵器』よ。」
「・・・分からないわ。」
「あんたは銀座のクラブで接客の仕事してたって言ってたわよね。もしうっかりグラスを落として割れたらどうする?」
「・・・まぁ、予備のグラスを出すか、なかったらオーナーにお願いして注文してもらうわ。」
「つまり、ダメになっても『代わり』があるってことよね。」
「うん、そう・・・え!もしかして!?まさかそんな・・・。」
「・・・そういうことよ。」
銀座の女は”女医”の言わんとするところを悟って理解しおののいた。HWは、任務遂行中に死んでもすぐに別の『代わり』が任務を引き継いで遂行する、『人間型多用途多目的生物兵器』なのだ。
「じゃ、じゃあ亡くなった後はどうなるの?遺体の引き取りとかお葬式とかは誰がするの?」
「『割れたグラス』に葬式なんかしないでしょ。『使えなくなった兵器』に葬式なんかしないわ。『使い捨て』よ。だから『究極の生物兵器』なの。」
「そ、そ、そんな・・・。だって2人ともワガママで自分勝手だけどみんなのためにがんばってるのにそれを『使い捨て』だなんて・・・。」
「人間にあってこの2人にないもの。何か分かる?」
銀座の女は震えてもう言葉が出ない。
「・・・『人権』よ。」
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