悲しき鬼 2017-09-03 18:02:37 |
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…鬼の事なんて、鈴は知らなくて良い。
(相手の口にした鬼という単語に顔を上げると、手にした本の表紙を見たのかと思い静かにそう言っただけで。もし自分が鬼ではなく、相手のように人間として生を受けたならば毎夜痛みに耐えることも、自分の意識のないまま望まずして誰かを傷つけることもなかったのだと思えば只々その生を悔やむばかりで。いくら穏やかな顔をしていても夜になれば本性が現れる、同種族には臆病で中途半端な鬼だと罵られ、人間には恐ろしいと忌み嫌われ、自分自身も本当の自分が分からないまま。鬼について考え始めれば負の渦に飲み込まれるばかりで、その思考を断ち切るように小さく息を吐いて。薄い氷の膜が張ったように冷え切った瞳がふと元の色を取り戻し僅かに愁いを帯びたまま相手を映して。)
…あまり、深入りはしない方が良い。
鬼と関われば自分自身を傷付けるだけだ。
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