悲しき鬼 2017-09-03 18:02:37 |
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(今日は普段よりもきつい、それはきっと抑え込んでいる筈の鬼が人間の香りを感じ取って暴れているからだろう。苦しくて、誰にともなく伸ばした手が小さな箪笥の足元に触れてはその衝撃で落ちた花瓶が畳に打ち付けられて激しい音と共に割れ。投げ出された青い花、月明かり差し込む部屋の中その額に現れた一本の角、意識が途切れる間際すず、と確かに紡いだ名前は声にもならずに、痛みに揺らいでいた瞳がふっと紅に覆われるのと同時に彼の意識は引きずり込まれ苦痛は落ちついたようで荒い呼吸だけが響き。やがて緩慢な動作で身体を起こしたその姿は、容姿こそ彼に変わりないが明らかに鬼そのもので。飢えに渇いた鬼が求めるのは悲しみの心、虚ろげで氷の刺すような冷たさを孕んだ紅い瞳で室内を一度見回すとこの屋敷の何処かにいるはずの人間を求めて立ち上がり部屋を出て)
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