矢谷啓 2014-05-13 19:43:45 |
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どうしよ、風邪引きたくなってきた。
(何てこと言うんだと内心気恥ずかしさで焦ってしまう。甘い言葉言うのには慣れてきたが言われる耐性は全くなく、しかもそんなことを言いにそうにない相手に真っ直ぐな言葉で、少し悪戯っぽく笑んで言われるとむず痒く違和感がある。が、その違和感は相手がそんな言動をとってくれることが何よりも嬉しいからで。しかし焦った気持ちを言葉には出したくなくて心を落ち着かせれば、そんな相手が介抱してくれるなら風邪を引いてみるのも悪くないと上記を言って。相手には言えないが、相手を知るほどに愛おしく思う半面彼女の亡霊がちらついてしまう。自分が一人になるのが怖くて、自分の目の前で傷付く姿をみたくなくて自虐する彼女に泣いてすがって止めろとしか言えなかった。自分の辛さばかり考えて彼女を自分とこの世に繋ぎ止めようとした結果、残ったものはなにもなく失ったことばかりで。相手には同じ過ちをしたくないなんて、そんな卑劣なことを思う自分を呪ってやりたい。笑ってと言われて相手の為に本心から笑いたいと思っているのに笑えない自分が腹立たしくその不甲斐なさに全身の血流が研ぎ澄まされるようで、涙腺が緩む感覚がした。それでも瞳に変化が起こることもなかったが酷く喉が渇き言葉が上手く出てこず「笑が、そばにいてくれるなら」きっといつかと自分のエゴを僅かに掠れた声でいう。相手も同じ気持ちであればいいと、確認する方法は簡単なのにそれをしないのは相手を信じているからこその恐怖で。こんな自分でもまだ知らぬ相手の影を理解して救えたらと願って。「それは否定しない。…じゃ、借りるね」きっぱり言い切れば言われたとおり洗面所に向かう。相手も十分真面目だと思うが仕事関係や人付き合いに関して言えば自分は徹底しているのではと自負してしまう。笑顔は作れないにしても相手に告白したら嫉妬してくれるのではと自惚れるほどのこともしているわけで。正直興味のない、中にはクズと思っている他人にここまで出来ている自分が不思議で仕方ない。手早く洗面を済ませ手持ちのハンカチで水滴を拭い、リビングへ戻ると自分の鞄から仕事用のパソコンを取り出して「…俺することあるからシャワー入ってきていいよ」とここの住人対していうにはやや失礼だが、時間は無駄にしたくないし、自分が何かやっていたほうが相手も気が楽だろうと思いそう言って。
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