矢谷啓 2014-05-13 19:43:45 |
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(もし相手の過去に汚れて腐った獣たちが関与していなければ今の彼いなかったかもしれない。残酷な過去が無ければ自分と己を受け入れる彼は存在せず、こうして愛を奏で合うこともなくただ平凡な日常が過ぎていっていたかもしれない。過去の醜悪を良しとする訳ではないが今こうして相手と時を共にして依存しあえるのも過去があるからで。数奇な運命と言うがこういうことなのだろうかとぼんやり思ったりして。相手から発せられる艶やかな声に欲情が掻き立てられ、首筋から垂れる血を舐めとり吸い上げると口内で唾液と混じり合わせわざと水音を立てながら耳元に唇を寄せ耳朶に甘噛みすると生暖かい液を冷たい首筋に滴らせて。「足りない…もっとおれに笑を見せて、おれにも痛みをわけて」妖艶に脇腹の血液を舐め取る様を満足げに見ては自らも脇腹に食い込ませていた包丁で手首を切りさき震える相手の口元に噛むことを要求するように押し付けて。もう自ら傷付けないそんな約束を破ってしまったことに涙する自分はそこにはいなくて。それでも崩れ落ちる相手の言葉が不安定な自分を何とか呼び覚まして「大丈夫、笑。今、笑と生きてる。そばにいる。笑がくれる愛の苦しみが愛おしい。我が侭じゃないよ、俺がそばにいたいんだ」床に座り込む相手を支えるように自分も崩れ落ち、互いの生暖かい血が冷えた体温に酷く映え、浮くように感じて。それでも自分より傷付く相手の出血量は彼を急速に死に近づけるようで自分も同じ場所に行きたいと床に落ちる血に濡れた包丁で首筋を傷つけ手の届かぬところへ投げると、強く相手を抱き締めて「笑、俺たちまだ生きてるよ…。ねえまだ生きたい。ずっと同じを感じてたい。…笑、狂っててもいい。生きようよ…」弱い自分が相手を強く求め甘い言葉で生を囁く。自分を傷付ける行動と生きようとする言葉は矛盾しているのに相手との共存が実感でき溢れ出る血が混ざり合うことが至福に思え「愛してる」と抱き締めながら確かに自分が薄らと笑んでいて。
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