矢谷啓 2014-05-13 19:43:45 |
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(死体愛好家なんてのは小説や文学でその言葉の意味を知っている程度と思っていたが、彼女の冷たい体と抱き締めた感触が脳裏から離れなくなって、時折またその体を抱き締めたいと感じるあたり自分はその類に含まれるのかもしれない。純粋で綺麗な彼女が自ら崩壊と消滅を選択し赤で染まり冷たくなった体を見た時の絶望感は今でも忘れることができない。暫くしたらまた目を覚ますかも知れないと硬直していく体を抱き締めて何度も名前を呼んだがその声は空虚に響き、彼女の死を見せつけられただけで。しかしそれと同時に彼女の死顔が苦しみから解放され穏やかにも見えて、また自分ももう彼女の苦痛に歪む表情も自傷する行為も見なくて済む、もう失う恐怖に怯えることもないのだと酷く安心して。自分が未遂をしたのは、彼女との永遠を望んだのか、彼女を救えなかった自分への戒めか、再び何かを喪失する恐怖からの逃走か、今となっては分からない。無意識に彼女と相手を重ねて失うことの恐怖に怯えているのかもしれない。ただ、こんな狂った己を受け止めてくれるのは間違いなく相手だけで、彼女には到底無理だったことだろう。そんな己を唯一受け止めてくれる相手を苦しめているのは紛れもなく自分で心の中で止めろと叫ぶのに震える手にこもる力は更に増していき、爪が食い込んでいく。相手の体が空気を求めて震え、喉が鳴る様を恐怖と快感の狭間でどこか人事のように見ては口角が上って。「笑、苦しいの」優しく問いかけては血の気の失った笑顔を「綺麗だよ、笑」と無機質な声で囁いてゆっくりと首元から手を引き解放するが息を吸うことを制するように深く覆うように口付けて
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