矢谷啓 2014-05-13 19:43:45 |
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(頬を伝う涙を見て、我に返る。首にかけた手を離し相手から遠ざかるように身を勢いよく退いて。こんな涙を流させたくなかった。今、自分は何をしたのか、頭の中が真っ白になり、首を絞められていた相手が苦しいはずなのに急激に息苦しくなり全身が震えるのが分かった。「違うんだ…違う」絞り出した声は酷く掠れ、何し対する否定かも分からずに首を横に振る。愚かな自分を今すぐ殺してやりたくて、相手の首の冷たい感触がまだ残るその腕に爪を食い込ませるように強く握る。これから先ずっと彼との幸せな時間を願っていたはずなのに自ら彼を裏切り最悪なかたちで終わらせようとしていたなんて。傷付けないと決めたはずが自ら彼に一生消えない傷を負わせ、取り返しのつかない過ちをしたと悟ったとき喪失感が支配して。それでもなぜ、首を絞められても“愛してる”と言ってくれるのか…己の狂気に触れて拒絶して当たり前の恐怖を感じたはずの相手が、まるで己を受け入れるような愛の言葉を返すなんて、「駄目だよ…。もうこれ以上は」傷付けたくない。心のどこかでいつかこうなるんじゃないかと分かっていてだから人を遠ざけて来たはずなのに。謝っても許されることではないが今すぐにでも彼を抱きしめて愛してると言いたいのにそんな資格が自分にあるはずがなく、爪を更に肉に食い込ませ血を滲ませて「ごめんなさい…」とそれでもなお不遜に謝罪の言葉を述べる自分が憎々しくて
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