矢谷啓 2014-05-13 19:43:45 |
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一緒なら、怖くないよね…
(確かめるように、一人じゃないと確信するように問いかける。やはり不安というものは確かに存在して、お互いのそれを取り払うように言った相手の気持ちも理解出来る。怖くないと言って欲しい。一人じゃないと、もう自分は相手を信じているから本当はこんな確かめ合いなど必要ではないのかもしれないが、どうしても聞いてしまいたくて。相手の口から聞きたくて。学生の時から明日が来ることに絶望を感じていた。学校に行ってちゃんと自分の席はあるのだろうか、罵られることは怖くなくてもありもしない噂が広まるのは怖かった。その中に確かに事実は存在しているのだろうけど、やってもいないことが自分の知らないところで一人歩きしていた。いつだって不安で震えているせいで、傷だらけの手首でさえも妬ましくなった。ついこの間まで夢に魘されていて、だけど相手が自分を救ってくれたから光のない朝を迎えることはだんだんと少なくなって。角度を変える度に口から零れる甘ったるい声に聴覚が犯されている気持ちになる。こんなの自分の声じゃないと感じるのに、不思議と嫌ではなくて。鼻から抜けるような、そんなことを感じさせる声色にゾクゾクする。「…誘って、るの…」そんなことを問いかける自分の顔が、いつもより赤く、今にも零れそうな涙が幼い顔立ちと不協和していることに気づいていない。妖艶に笑う相手は何て美しいんだろう、自然と胸が高揚し、相手を求めている。相手のことを潤んだ瞳で見つめながら、「ね、啓…もう一回…」なんて我儘を言ってしまえば自分の行動の意図が自分自身でもわからなくて
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