ポンコツ天使　_/bI

はぁ…そうっすか…。
(一歩も引く気を見せない彼に呆れたを通り越し何処か面倒くさくなってしまうと曖昧に返事をする。と、こちらの問いに答え遠い目をする彼に自分も一瞬遠い目で相手を見つめ又哀れむような笑みを向けると『お疲れさまです』とそれだけ呟く。すると急に空気が更に冷え始め少し考え込むと『家、こっちです。後目立つんで此羽織っといて下さい』そう言いつつ己が着ていたジャンパーを渡せば歩き始める)

えっ……いいのか？
( 相手の己を哀れむような態度には特に何も感じなかった。慣れとは恐ろしいものだな、などと思っているとジャンパーを渡された。家に置いてくれるということだろうか。一瞬遅れてその意味を理解した頃には既に歩き始めた相手の後ろを慌てて付いて行きながらジャンパーに腕を通して遠慮がちに尋ね )

あんな所に人置き去りにしたら逆に俺が疑われるんでね。
(それだけは勘弁、と言った様子で肩を竦める。話していると吐息が白く立ち昇り寒いことを強制的に理解させられる。彼はどの位此の寒い中で一人だったのだろうか、なんて考えてみたりもしてしまう。後ろをちらりと見やり彼が付いてきているのを確認すると又顔を前に向け『あんた、名前は？俺は代木由灯』と後ろを振り向くこともしないまま只淡々と問うてみる)

そうか。………ありがとうな。
( 理由はどうあれ家に置いてくれることはありがたい。少し間を置いて礼を言い、前方を歩く相手には見えないとわかっていながらも笑みを浮かべ。淡々とした口調で名乗られたので『由灯か…。俺はルミエルだ、これからよろしくな』日本人らしい名前だな、と思いながら相手の名前を呟いた後、自分も名乗ることにし )

いや…別に。
(決してニートではないが引きこもり気味の自分には家族でさえ接する時間も一般人より少なくお礼を言われたことなんて18年間の人生で両手に収まるほどだ。その為少し心地が悪そうに頬を人差し指で小さく掻きながら低く呟く。『ルミエル…。…。…あ、はい、宜しく』名前まで英名にするとは熱心なレイヤーだなぁなんて考えていれば相手からの挨拶に今度は一応後ろを向き軽く会釈を返す)

( 後ろから相手が頬を掻いているのが見え、照れているのだろうかと首を捻る。今までの冷たい対応ももしかして素直になれないだけなのではないか、と考えてみたりもしたが、さすがにそれはない、と首を振って雑念を払う。彼が後ろ向いて会釈したので、自分も無言で微笑んでそれに応える。ふと相手の息が白いことに気づき、気温が低いことを思い知った。『…由灯、寒くはないか？』自分はジャンパーのお陰で温かいが、それを貸してくれた相手は寒い思いをしているのではないかと心配して尋ね )

寒いっすけど…別にジャンパーはまだ返してもらわなくても良いですよ。
(ゴミ出しに来ただけなので此処から家はそう遠くはない。先ず彼を風呂に入れてその後着替えは…親父のでいいや、それから詳しく話を聞いてみよう。そう考えつつ一人頷いていると、彼から一言。少し機嫌が悪そうに見えるが至って此が通常運転。それに今ジャンパーを返されては時間が経つと共にちらほらと増えてきた人の注目を浴びるに違いない。それだけは嫌だ。それでも一応嘘は言わない主義だ、事実の言葉を返して)

…そうか？でも風邪を引くと大変だぞ。
( ジャンパーを返そうと思った矢先返さなくていいと言われた。やはり目立つからだろうか、と考えて周囲の人を観察してみると皆自分とは違う系統の服を着ていて、彼が目立つと言った理由を理解する。このまま寒い思いをさせるのは申し訳ないが、ジャンパーを返す以外に自分にできることなど一つしか思いつかない。歩調を速めて相手の隣に追いつくと相手の手をとってそのままジャンパーのポケットに突っ込み、『これなら目立たないし少しは温かくなるだろ？嫌だろうが少しの間我慢してくれ。』と言い )

自分の体調くらい自分で管理出来ますよ。
(風邪という単語を出し心配してくれている相手に笑顔も見せずツンとした態度でぴしゃりと返せば辺りを見回している彼に気づく。そろそろ自分が普通の人とは違うってことを理解し始めてんのかな、と勝手に一人頷くとふと彼が自分の隣に近づいてきた。何かする気だろうか…離れた方が良いかなと表情には出さず心の中で思考を巡らせていると自分の手はいつの間にかジャンパーのポケットに。『…初対面の人にこんな事よく出来ますね』受け入れるでも拒否するでもなく俺だったら無理だわ、と自分と重ねて考えていて)

そういうことを言うと体調崩した時に恥ずかしい思いすることになるぞ。
( 相手のツンとした態度も慣れてみると可愛いもんで、不快な思いをすることもなかったが一応忠告だけはする。いきなり手を掴んでジャンパーのポケットに突っ込んだのに意外にも嫌がらなかった彼が発した一言には『うん？いやだって寒そうだったし』と自分の行為のどこがおかしいのか理解できずに首を捻り、少しの間考え込むと『…ああ、そういえば日本の人間はシャイだって聞いたことがあるな』と思い出したように小さめの声で呟き )

大きなお世話っすよ。
(忠告をされればギクッとした様子で相手に向き直り本当にそうなったらマジでやばいな、なんて内心焦りつつ返す。日本人だったらまず有り得ない行動をした彼が言った言葉に『普通はしないっすよ』とわざとらしく引き気味に、それでも己の手を引っ込めることはせずに述べ。『全員が全員そうって訳でもないですけど』外国人からの日本人に対する一般的なイメージを言う彼に頷くも自分はそうでもないと否定)

それはすまなかったな。
( 言葉と行動が若干矛盾している相手を見てくすっと笑い、全く悪いと思っていない様子で平謝りする。彼が引き気味に言葉を発したが"普通"の感覚というものが理解できなかったので『そういうもんなのか？』と不思議そうに首を傾げ。日本人に対する一般的な印象から自身を除外する相手に『まあ確かに恥ずかしがる由灯なんて想像できないな…』と今までの自分に対するツンとした態度を思い出しながら何やら納得した様子で頷き )

なに笑ってんだ、張り倒しますよ。
(どうもこいつは調子を狂わせるのが巧い。クスリという小さな笑みが聞こえれば耳まで真っ赤にし珍しく大声を出しながら相手を見上げる。不思議そうに首を傾げる相手に弁解するのを諦めたように溜息を吐くと『まぁ…あったかいから、良いっすけど』とぼそぼそと呟く。何やら納得してくれた様子の彼に頷くと『照れることはありますよ。…着きましたよ』握られている手を恥ずかしそうに見つめ、家に着いたことをこれ幸いと話題に上げる)

うーん…この体格差だし無理だと思うぞ。
( 珍しく耳を赤くして大声を出す相手に驚きつつも冷静に分析した結果を口にする。何やらぼそぼそと呟く相手の声を辛うじて拾い取ると『そうか、ならよかった』と自分がしたことが間違っていなかったことに安堵し。相手が恥ずかしそうに握られている手を見つめていることに気づいて、もしかして今照れているのだろうか、などと考えていると家に着いたと告げられた。家を見上げながら『もう着いたのか。近いんだな』と言って鍵を開けられるように手を離してやり )

うっさいな。
(相も変わらず冷淡に話す彼にちっと低く舌打ちをしながら紅潮した頬を隠すように片手で顔を撫でる。安堵した様子の彼の頬を向けば『でも普通の人間にはしない方が良いですよ。即通報ですよ』なんて注意事項をぼそりと告げて。手を離されれば先程まで温かかった掌に一気に冷たい空気が吹き込み彼の手が温かかったことが更に理解できた。『ゴミ出しに行ったですからね。遠いと大変ですから』鍵を開けながらそう話し扉が開けばどうぞ、と相手を中に促す)

その反応はひどい。
( 相手の可愛い行動に頬が緩みそうになるが又怒鳴られそうなのでぐっと堪え、舌打ちに対しひどいとは言いながらも全く傷ついていない様子で上記を述べる。此方を向いた相手の口から出た"通報"という単語にはビクッとし、現状で通報されるのはまずい、と内心慌てるが表情には出さず。『うっそれは困るな……わかった、気をつけるよ』と少し考えた後頷いて見せ。相手が扉を開けながらした説明には納得して頷き、促されれば『えっと、お邪魔します…？』と日本人が他人の家を訪れた際に言う言葉を思い出して疑問形で言いながら中に入り )

あんたが変なこと言うからでしょ。
(何言ってんだコイツ…みたいな目線を向けつつ今迄のやり取りが可笑しく感じてきて思わずふっと吹き出してしまう。やっと自分が置かれている状況に気付いたらしい彼に本日何回目かのわざとらしいため息を吐き、『本当、気を付けて下さいよ』と呆れたようにしかし面白そうに答えれば。『何で疑問符っすか…』と冷えきった手を温める様に擦りながら特に意味も無く聞いてみたり。『…風呂、入ります?』ふと思い付いた様に提案)

いやいや、俺は事実を言っただけ……ってなんだ、笑えるじゃないか。
( 冷たい視線を送る相手に反論しようとすると、ふっと吹き出す音が聞こえ、それが今まで一切笑わなかった相手から発せられた物だと解ると驚きつつもどこか嬉しそうな表情を見せ。溜め息を吐きながら言われたことには『ああ。由灯以外にはしないことにする』と真顔で宣言し。素朴な疑問をぶつけられるが、天界にない習慣だから、なんて答えられないので『うん？ああ、ド忘れしただけだ』と此方も中身がない返答をすることに。相手の提案には『いいのか？…じゃあ入らせて貰おうかな』と先程まで自分がゴミに埋まっていたことを思い出しながら返し )

…笑っちゃ駄目っすか。
(笑い顔を指摘されればはっとしたような表情で口許を抑え恥ずかしさからかぎろり、と睨みつつ不機嫌な口調で告げる。そう言えば素で笑ったのは久し振りかもしれない。彼からの返答にぎょっとしたように目を見開くと『何で俺にはするんですか』と一番気になる事を聞いてみる。真顔なのも妙に気になる。中身がない返事に『じいさんみたい』何てぼそりと呟いてみれば、相手が自分の提案に同意したため軽く頷き『じゃあお湯ためるんで待ってて下さい』と言いリビングに入れば相手の分の椅子を用意してから風呂場へ向かう)

いや、駄目じゃない。…もっと笑えばいいのに。
( ぎろりと睨まれるが怯むことなく上記を述べた後『笑ったら可愛いんだから』と付け足すが、言ってからしまった、と後悔して内心焦りながらも相手の次の言葉を待つことにし。何やら驚いている様子の相手に尋ねられると『由灯は嫌がらないし、通報もしないだろ？それに風邪を引いてもらったら困る』と思っていたことを正直に述べ。相手の呟きを聞き取れば『失礼なっ』と反論しようとするが、実際長い間生きているのであまり強くは言えずに黙り込むと、相手が椅子を用意してくれたので『ああ、わかった』と言って腰をかけて待つことにし )