匿名さん 2018-08-03 00:08:59 |
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( 距離が縮まるにつれ、不気味な明かりに照らされた物体の境界線が顕になる。微かに、一定のリズムで動くそれは生命体だという事を示している。風と波の音が煩わしいほどに鳴り響き、それの指先が小さく動く。肢体は砂浜に投げ出され、瞳を閉じているそれは人間だ。黒に染まった毛髪は風と共に踊り、何かに苦しむ様に、足掻く様に、目を瞑り手を震わせる。悪夢に魘されている、と見るのが妥当だろうか。顔立ちと体つきから見て少年である事が伺える。すると、白い鴉が一つ犬の様に吠えながら、森から銃弾の様に飛び出した。地平線の彼方へ、何処へ向かうのかも分からず、遠くへ遠くへ消えていく。鴉の遠吠えを合図にする様に、海の底から何かが酷く響いた。空は泣き、波は意志を持ったかの様に風と共に暴れ狂う。嵐が突然やって来たかの様に冷たい雨は走り回り、波は今にも此方に襲いかかってきそうだ。幸いにも森は高い位置にあり、森へ逃げれば波が襲ってくる事は無いだろう。懸念すべくはその距離か。波は着々と君を呑み込もうとすべく勢いを増しており、早い判断と確実な行動が求められる。少年は未だ目を覚ましそうに無く、まず君は少年をどうするかを決めなければならない。置いていってもこの世界で君を咎める者は一人も居ないだろう。自分の命のみを優先するのなら、少年を担いで森へ逃げるのはリスクが高くメリットはない。それを考慮しながら、一かばちか少年と共に森へ駆け込んでもいい。勿論、自分の命を優先してもいい。別の道を探してもいい。太陽は雨を恐れ逃げ出してしまったようだ。 )
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