かなえ 2018-04-29 00:18:10 |
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……お前が木から降りられなくなったら私が助けてやれるが、お前が私を助けるのはちと厳しいと思うぞ(背中を伸ばし歩幅は大きく。指先一つにまで神経を張り詰めなければ父の代からの部下にはそう認めてはもらえない。鋭い眼差しは女当主への嫌悪ではなく、己が従うに相応しいか見極めるものであるから恐れるには必要ない。とはいえ、毎度これに晒されるのは肩が凝るもんだと、鉄面皮の下胸中で溜息を漏らし。無駄に広い屋敷の無駄に長い廊下を行く途中、何か楽しい事でも考えて気を紛らわそうかと先程の出来事を振り返ればふと己が降りる瞬間の彼の動きを思い出して、真面目な顔付きのまま隣にだけ聞こえるよう今更ながら一言ぼそりと上記を口にして。)
うるせー、少なくともお前の着地台くらいにはなれんだろ。( きっと此れからの事態に備えきれてない故のふざけているのか、本気なのか意図が読めない言葉を吐いているのだろう。周りの圧に潰されない様強がっているつもりなのかもしれないが、此方にはそれが手に取るように分かる。こんな時に掛けてやれる言葉がないのが悔しいところだが、) あーちゃん、こっち向け。( 突然に彼女を昔の呼称で呼ぶと腕を掴んで足を止めさせた。そして彼女が此方を向いた瞬間に背伸びをして額にでこぴんをすれば、) んな辛気臭い顔すんな。大丈夫だ、俺が隣にいる。( 少し照れ臭そうに頰を染めながら目線を逸らす。柄にもない事ではあるが、こうでもしてやらないとずっと気を張ったままだ。少しでも緊張を解してやろうと、自分なりの気遣いをしてはスタスタと恥ずかしさを紛らわす様に再び歩き出して、) ほら、行くぞ。ご当主。
着地台でいいのか、おかしな奴だなお前(不貞腐れたように、しかし本人はどうやら至って真面目に言っているらしい言葉に思わずぶふ、と笑いを零し慌ててそれを噛み殺す。彼が己の一番の部下であることも、忠犬であることもよくよく分かっているつもりではあったがまさか着地台とまで言うとは誰が予想したものか。自分では気が付かなかったがどうやら緊張していたらしく、くつくつと愉快げに肩を揺らす事で無駄な力が抜けていくのを感じ取る。昔からこういう所は叶わないな、なんて決して口にはしないけれど。呼び止められれば素直に応じ、何事かと笑いジワの残る顔を貴方へ向けよう。一瞬だけ身長差が縮み、額に残ったのは微かな痛み。しかしてそれを抑え鮮烈に残ったのは男の照れ笑いだろうか。くそ。顔を歪め内心小さく呻く。さっきの笑いで充分だったというのに_余計に力が入ってしまっただろうが。先を行く男の後ろ姿を睨み付ける目尻はほんのり赤い。当主の前を行くなど無礼者めなんて文句も今だけは飲み込もう、お陰でこんな痴態を晒さずにすんでいるのだから。会合の和室に到着しその襖をひく直前、すっかり通常時に戻った顔で一言ぼそりと)かなえ…覚えとけよ
はいはい、先ずは目先の問題解決してからな。( しっかり者と思われがちな言動のせいで背負う物が多過ぎる。たまにはこうやって不意を突いてやらなくてはその内また倒れる。只でさえモデルの様な細い身体をしているのだ。自身が支えてやらなくてはならない。義務であり、自分が成すべき事だから。和室の前、ぼそりと零した言葉にちら、と横目で表情窺うと思ったよりも柔らかな雰囲気に変わった。ふ、と小さな笑みを独りでに洩らした後、上記を口にすれば襖を開け、) ご当主様がいらっしゃいました。( 縦に長く続く畳の横にずらりと並ぶ男達にそう告げると、男達が一斉に社交辞令に習い頭を下げた、)
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