希望者募集 2018-04-07 11:12:05 |
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(少しは反省しろとも思うのだが、この程度の事でこれ以上怒るのも大人気ないようで気が引ける。ひらりひらりと躱してみせる掴み所のない相手にもどかしさを感じていれば、不意に彼の手が此方に向かって伸びて。「何を──…。こら、やめろ。」何をする気だ、と問いかける前に触れた指が眉間をほぐすように動くとぱちりと目を瞬かせ。自分が本気で怒らないとわかっているからこその、ある程度は計算された行動なのだろうが、まるで自由な子供や猫を相手しているような気になればなんだか毒気を抜かれてしまった。彼を猫に例えるのはこれで二度目だと他人事のように思いつつ相手の手を握ればやめさせようとし。「もしそうなったら、眠っている間に刺客が来ないか見張っていてもらうか。」殺した人間が化けて出るなんて縁起でもない話だがまさか相手が真剣に考えているとは思わず、そんな軽口を叩いて。幽霊になった相手を前にのんきに眠れるとは思えないが、と心の中で付け足しては腕を組みつつ緩やかに口角を上げ。ふと、先程までのように動いても鋭い痛みを感じなくなっている事に気が付く。短い時間が随分長く感じたが、効果が薄れてきたのだとわかれば密かに安堵して。「殺意があるならまだしも、戯れに俺の命を危険に晒すのはやめろ。もし俺が死んだら誰がお前を殺すんだ。」無論易々と仕留められるつもりなど無いがそう言うと、気が抜けたからかすっかり忘れていた空腹感が顔を出し。作ってもらったものを無駄にするのも忍びなく漸く食器を手に取っては、ピタリと手を止め。果たして料理にも何か混ぜられている可能性が全く無いと言い切れるだろうか。二度も同じ手に引っ掛かりたくはないし、何より相手が用いた薬によってはあと一口で致死量に達してしまう恐れもある。「__ほら、口を開けてみろ。」少し痺れが残っており普段と比べればややぎこちない動作であるものの、問題なくフォークを回しパスタを絡めればもう片方の手を下に添えつつ相手の口元へ運んで。取り敢えず毒味をさせてみようと。「…俺以外の誰かが相手だったなら、そういう道もあっただろうな。」相手の言うことも理解できる。痛みや苦しみを誰かと分かち合う事で救われる人間も確かに居るだろう。しかし、自分はどうしても己の弱い部分を認めるわけにはいかないのだ。一度でも人を殺めるのが辛いと口に出してしまえば、きっと今まで通りには仕事もできなくなるだろう。そして組織の中で役立たなくなった駒がどうなるかなど、もはや言うまでもない。今はまだ主人への忠誠心を捨ててまで相手について行こうとは到底思えず、ばつが悪そうに視線を彷徨わせては再び救いの手を拒み。相手との関係や相手に抱く感情がもう少し違っていたのなら、自分の答えも変わっていたのだろうか。なんて、ほんの少し可能性に思いを馳せてみたものの、すぐに馬鹿馬鹿しいと首を振れば幾らか落ち着いた様子で。)
悪いが、俺はあの人の傍に居たいんだ。本当に俺の力になりたいなら、さっき言った通り俺の事は放っておいてくれ。
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