希望者募集 2018-04-07 11:12:05 |
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(うっとりと言葉を紡ぐ相手は今自分が頬に感じている痛みなどお構い無しなのだろう。__嗚呼、憎たらしいその目を刳り貫いてやりたい。なんて、怒りにまかせて馬鹿な真似はしないけれど。「…どうも。好意を示されて、ここまで嬉しくないのも初めてだ。」刹那、眉を寄せるだけでは耐え切れない程の激痛が走り、目の前で火花が散ったかのように視界がチカチカと明滅する。足の骨が軋む鈍い音を聞きながら再び唇を噛み締めれば、鉄臭い血の味が微かに口内に広がった。多少毒や痛みに耐性のある自分ですらこうなのだから、常人であれば一発で意識が飛んでいたかもしれない。「ぐ、──ぁ。…っ、お前は、加虐趣味でもあるのか? つくづく救いようのない…。」無様に悲鳴をあげる事こそなかったものの、抑えきれなかった呻き声が漏れる。敵意を一切隠さずに減らず口を叩き、ゆっくりと乱れた呼吸を整えれば「お前を始末する時は、わざと下手に殺してやる。」なんて冗談か否かはかりかねる恨み言を吐いて。ターゲットを始末する上で、対象の考えを読めるようになるのは当然良い事である。それなのに全く喜べないどころか却って嬉しくないと感じるのは、やはり相手が彼だからなのだろう。「振り回すにしても、もっと他に方法は無かったのか。嫌いになるぞ?」いずれ葬り去る事が確定しているターゲットに対して好きも嫌いもないのだが、仮にも自分に好きだの愛してるだのと言ってくる相手にこう言えば、少しは突拍子もない行動を防げるだろうか。と特に深く考える事もなく返事して。そうして随分といつもの調子を取り戻してきた頃。相手が手を差し出すと共に甘い声で述べた言葉に目を見張る。自分が両親や主人にすらひた隠しにしている部分に、彼は気が付いている。ひゅ、と息を呑む音が聞こえたと思えば、いつの間にか席を立ち相手から離れようとしていて。頑丈な箱に封じ込め長年見て見ぬ振りをしてきた己の弱さ。それを今表面に出されたら、きっと自分は駄目になってしまう。これより先に踏み込ませてはいけないと初めて相手と顔を合わせた時以上に警戒を強めればしっかりと相手を見据え。「…断る。俺達の本来の関係を忘れるな。」きっぱり言い切ったつもりだが、少し声が震えてしまっていたかもしれない。常に冷静でいたいのに、相手の前ではいつも感情がわかりやすく表に出てきてしまう。それはきっと奔放な彼の性格に引き摺られているからに違いなく、まったく忌々しい限りである。一歩後退る毎に足裏全体で硝子の破片を踏んだような痛みが走るが、とにかく少しでも相手と距離を置きたくて、そんな事は気にしていられなかった。「あの人の邪魔者を始末し続ける事が、俺の使命なんだ。殺しだってもう慣れた。苦しくなんてない。あの人は何も悪くない。…俺は自由だし、今が一番幸せなんだ。」そう、いつだって主人は己の行動原理であり、まさに生きる理由なのだ。もし始末屋として暗躍する、という己の存在意義を奪われてしまったら、その時自分は一体どうなってしまうのか。恐ろしくて想像すらしたくない。相手の言葉に答えるためではなく、自分に言い聞かせるため、暗示をかけるようにひとつひとつ丁寧に言葉を紡いで。)
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