希望者募集 2018-04-07 11:12:05 |
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(特に逆らう理由も無く、促されるまま席に着く。改めてなんて奇妙な光景だろうと思いながら相手と同様にグラスを持ち上げてはちらりと彼を一瞥し。ルビーのように澄んだ液体の中におかしなところは見られない。くるりと反時計回りにグラスの中身を転がせば口に含んで喉の奥に流し込み。グラスをテーブルに置いたところで、ぴくりと指先が動く。酒は元々得意ではない方だが、さすがに一口飲んだだけで酔うほど苦手ではないし、この酒の度数もさほど高くはなかったと記憶している。つまり。一瞬大きく視界が揺らいだと思えば、全身がピリピリと痺れ始めた。ひとたび服が肌に擦れれば、その僅かな刺激だけでも痺れは無数の針で刺されているかのような痛みに一変し。毒物か劇物かは知らないが、ワインと共に何かを飲まされたのはもはや疑うまでもないだろう。しかし、症状がすぐ出たにも関わらず命に別状がないという事は、致死量は盛られていないと考えていいのだろうか。どくどくと大きく脈打つ心臓の音が焦燥を煽り、冷静に思考を巡らせているつもりでも視線は忙しなく宙を泳いだ。ただ組織の機密を守れば良いのなら舌を噛み切ってしまえば済む話だが、ここで命を絶とうものなら一体誰が目の前の相手から主人を護るのか。無論生還するのが最良とはいえ、死ぬ時は刺し違えてでも相手を殺さなければ。末端から冷えていく体がやけに重く感じられ、気合を入れ直すため痛みに構わずきつく唇を噛み締めると同時にテーブルの下で拳を握り。「…成程。俺が注意した通り、料理には混ぜなかった、と。狡賢いな。」普段と比べればやや途切れ途切れではあるものの、可能な限り淀みなく発音する。中途半端に麻痺した体では意識しなければまともに呂律も回りそうにない。正直に言えば、今の自分にとっては話すどころか普通に座っている事すら苦痛だ。それでもこうして語りかけるのは、相手に隙を見せずに次の手立てを考えるために他ならず。「それで? こんなものを飲ませて、どうするつもりだ。」相手が自分を殺める気でいたのなら、今日だけで幾度もあったチャンスを見逃したりはしないだろう。その上でわざわざ死なない程度に毒を盛ったという事は、きっと何かしらの理由があると考えるのが妥当で。キャパシティオーバーで悲鳴を上げそうな頭をなんとか働かせる。考えて、考えて、やがてひとつの可能性に行き当たれば、信じられないと言うように眉根を寄せ。「まさか、特に意味もなく…?」一応問いかけるような口調ではあるが、頭の中では結論が出ているに等しかった。確実に殺害するためだとか、拷問するためだとか、はたまた拉致して人質にするためだとか。相手がそういった正しい用途のために毒を盛ったと思うのか、と問われた時、迷いなく首を縦に振れる自信が自分には無い。嫌がらせや悪戯の延長、もしくは自分を振り回して楽しむため、とでも言われた方が彼に限ってはしっくりくるのだ。呆れ半分に相手を見遣れば苦笑して。)
性悪もここまでくると清々しいな…。お前の事は死ぬほど好きじゃない。が、嫌いでもないぞ。
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