希望者募集 2018-04-07 11:12:05 |
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…俺の事なんて、好きにならなければよかったな。
(相手は何故、こんな自分のためにこうも心を乱しているのだろう。まさか恋に落ちた結果がこれだというのか。くだらない。こんな醜態を晒すくらいならば、やはり自分は一生色恋とは無縁で構わない。ぽつりと上記呟きながら、何かに導かれるように相手に向かって手を伸ばす。いつか相手がそうしたようにしっとりとした彼の髪を何度か撫でれば、すぐに興味を失ったように手を下ろして。「──、悪趣味な奴。」熱のこもった視線と共に掛けられた言葉。薄らと潤んだ両の目を細め、見下すように浮かべた笑みと、咄嗟に出た憎まれ口は精一杯の虚勢であり。相手が右肩に顔を寄せた途端、嫌な予感が脳裏を過ぎる。きゅ、と目を瞑り次いでやってきた痛みを耐えれば満足気な相手に対し恨みがましい視線を向けて。変に火照ってしまった体に当たる温いシャワーが心地良い。噛み付かれたかと思えばこうして優しく接され、膨らんでいた警戒心が肩透かしをくらったようにみるみる萎んでいくのがよくわかる。安易な例えになるが、まさにジェットコースターに乗せられているような気分だ。「取り敢えず、お前の着替えも用意してくる。シャワーを浴びて大人しくしていろ。」行き場のない色々なものが混ざった感情をなんとか飲み下せばそう言って先に脱衣所へ。タオルで体を拭っていると、意識せずとも彼が自分につけた二つ目の傷が目に留まる。今もズキズキと痛むその場所には存外はっきりと跡が残ってしまったらしい。まるで所有の証のよう──なんて、いつの間にか彼の思考に毒されてしまったのだろうか。もし自分に所有権があったとして、それを持つのは己の主人以外には有り得ない。雑念を振り払うように手早く着替えを済ませると寝室に向かって。さて、相手の背格好は自分と大差ないように感じられたが、まったく同じサイズの服では少し窮屈になってしまうかもしれない。普段自分が着ている部屋着の中で余裕のあるものを幾つか出し、自然に黒色のものを選べば新品の下着やタオルと一緒に持って行き。軽く一回叩いてから扉を開けば遠慮も恥じらいも無く顔を覗かせて。すぐに相手の姿を捉えたが、ハッとして思わず息を呑む。湯気で霞んだ視界の中、彼の体に刻まれた無数の傷跡が目に映った。かなり気が動転していたとはいえ、つい先程まであんなに近くに居たのに目に入らなかったのが不思議である。__あの程度の怪我で騒いでいたくせに、自分も相当無茶をしているじゃないか。他人を気にする前に、まずは自分の事を心配したらどうなんだ。もやもやと胸に渦巻く名も知れぬ感情を抱えながら、相手から目を背けてはカゴの中に衣類とタオルを置いて。「纏めてここに置いておく。服のサイズが合わなければまた呼んでくれ。」そう言って扉を閉めると早々に脱衣所を出て、大人しくリビングで待つ事にし。)
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