希望者募集 2018-04-07 11:12:05 |
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ああもう、強引すぎる…。
(心の中でそっとお前は猫かとツッコミを入れつつ、これ以上何を言ったところで相手が退く事は無いのだろうと悟れば本日何度目かの溜息をついて。相手を見ればどこか一点に集中している視線。それを辿った先にあるものに気がついた矢先、ひやりとした壁に体を押し付けられた。怪我について問う相手は静かに怒っているようで、少なくとも機嫌が良さそうには見えない。一体何が相手の地雷を踏んでしまったのかと頭上に疑問符を浮かべ。「今日のターゲットは一撃では死ななかった。そのせいでかなり抵抗されたんだが、攻撃を避けているばかりでは埒が明かないだろう? …だから、一発くらいくらってもいいか、と。」聞かれたからといって相手に報告する義務など無いのだから、お前には関係ないと一蹴してしまえばいいものを、戸惑いからついするすると言葉を紡いでしまう。説明を終えればどうにも相手と目を合わせていたくなくて、視線は徐々に足元へと落ちた。次の行動を考えあぐねていると、ふと相手の指先が自身の首から下へ向かってゆっくりと滑っていく。身を捩ったところで背後は壁であり逃れられる筈もなく、迷いなく動く彼の手はやがて打撲傷のある脇腹に到達した。「っい、───!」慣れているぶん耐えられる、というだけで自分は特別痛みに強いわけではない。相手の爪が容赦なく皮膚を破れば、奥歯を噛み締めながら苦痛に顔を歪めて。「お前のものになった覚えは無い。…そもそも、この程度の怪我なんて放っておいても問題ないだろう。」多少腫れているくらいであれば無傷も同然、というのが自分の考えだ。もちろん自分の周囲の、所謂普通の人間がこんな怪我をしていたらすぐに手当てするよう言い聞かせるけれど、生憎自分は普通とは程遠い存在。仕事中は最悪の場合命を落とす可能性すら有るのだから、これくらいで済んだのならむしろ幸運と考えるべきではないだろうか。しかし、それを口に出せば更に相手の怒りを買ってしまうのは明白であり、主張はあくまで最低限に留めて。彼の舌が傷口を這った瞬間、ぞくりと身を震わせる。嗚呼、まただ。こうして時折彼に対して感じる危機感は一体何なのだろう。相手からどろりとした感情を向けられる度、自分はいつしかそれに飲み込まれ溺れてしまうのではないかと。そんな事を考えてしまうのだ。色々と言いたい事は有るのだが、上手く纏められずなかなか制止の言葉が出てこない。不意に舌先が傷を抉るように動けば小さく体が跳ねた。こんなじくじくと疼くような鈍い痛みではなく、いっそ刃物を突き立てられた時のような、目が冴える程の激痛であればよかったのに。理性は残しておきながら少しずつ此方の余裕を削り取っていくようなこの感覚は、成程、彼という人間によく似ている。立ち込める湯気とそれに混ざった仄かな血の香り。断続的に相手から与えられる痛みを耐えていれば自然と息は上がり、くらくらと目眩がしてきた。苦しんでいる声を相手に聞かせるのもなんだか癪で、右手の人差し指の第二関節辺りに噛み付けば声を抑え。異なる痛みを感じる事で多少冷静さを取り戻せたのか、彼の肩にもう片方の手を添えると力を加え、漸く抵抗を示して。)
__やめ、ろ。ばか。
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