希望者募集 2018-04-07 11:12:05 |
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っ、……余計なお世話だ。
(直接心に纏わり付くような低音が鼓膜を震わせ、擽ったさにぴくりと反応を示す。余韻が残る耳をごしごしと手のひらで擦りながら自分からも少し距離をとると、刺々しい口調で返し。先程から自分は相手のペースに乗せられすぎだ。緩く首を横に振れば一度気持ちをリセットして。「嗚呼、いや、その…。───すまん。」此方の考えている事を見透かしたような言葉に、なんとなく居心地の悪さを覚える。何か言い訳をしようと取り敢えず口を開いたものの、残念ながら今は始末屋としてのスイッチも、猫被りのスイッチも入っておらず。限りなく素に近い自分はけして口が回る方ではなく、ろくに言葉が出てこない。やがて少し顔を俯かせては諦めたのかぽつりと謝罪の言葉を口にし。リビングを出て、寝室にて着替えの用意をしつつぼんやりとこの後の予定を立てる。一緒に食事を取って、相手が風呂に入っている間に後片付けと布団の用意をして、できれば今日の午前中に受けた講義の復習も終わらせて──。就寝までにかかる時間を大まかに計算すれば、明日の講義は欠席した方が良さそうだと判断して。任務を遂行した日、浴場へやって来てまず行うのは怪我の有無を確かめる事。知らぬ間に出来ていた傷が原因で動きが鈍ったり、計画が狂うような事があってはならないからだ。服を脱ぎ様子を見てみれば、微かに左の脇腹が赤く腫れている。とは言っても押せばつきりと痛む程度のものだ。久々に大きな痣ができるだろうが、これに関しては放置しておいても一週間もすれば綺麗に消えているだろう。その他に目立った外傷が無いと確認できれば一先ず安堵して。さて、そうとわかれば早く体を洗ってリビングに戻らなければ。そうして風呂に入っていた…の、だが。突如勢いよく開かれた扉と、姿を現した相手。一分も予想していなかった出来事に直面し一瞬呆気に取られるが、頭で何かを考えるよりも先に体が動き扉に手を掛ける。「結構です、お引き取り下さい。」思わず敬語になりながら早口でそう告げては、ぐぐ、と力を入れ押し返そうとして。相手の侵入を拒みながら平静を取り戻そうとするものの、正直な所、ばくばくと早鐘を打つ心臓を治めるのに必死でそれどころではない。嗚呼、本当に吃驚した。体の芯は一気に冷えたというのに表面は未だぽかぽかと温かく、その温度差が気持ち悪い。「一緒に風呂に入るというだけでも嫌だというのに、無防備に背を向けろと? そんなの、相手がお前でなくともお断りだ。すぐに出るから部屋に戻れ。」露骨に顔を顰めては捲し立てる。覚悟はしてきたつもりだったが、改めてとんでもない男を部屋に入れてしまった。今更ながら強い後悔の念に駆られて。)
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