若き将校 2018-03-28 22:31:14 |
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(不意に扉の開く音がすれば、もう薬の時間だろうかと窓の外から扉へと視線を向けて。しかしそこに居ると思われた看護師の姿はなく、代わりに立っていたのは姿こそ昔とは変われど見間違うはずのない親友の姿。ーーーまさか、そんな事があり得るだろうか。疲労の浮かぶ目元と髭の生えた彼の顔にはかつての明るい笑顔はなく、服から覗く左半身には痛々しいまでの火傷の痕が刻まれて。はっきりと視線が絡み合ったまま脳裏に蘇るのは軍を離れた時の臙脂色の空、胸が張り裂けんばかりの悲しみと、空を滑る機体。気付いた時には相手に身体を抱きしめられ、信じる事のできないこの状況に息をすることすら忘れたように何も声に出さず。二度と会えないだろうと思った、自分の事など憎み記憶から消し去って欲しいとさえ願った相手の確かな体温をその熱の薄い身体に感じ。窓際の棚に置いていたかつての二人の写真に眩しいまでの光が注ぎ静寂が部屋を支配する中、相手の存在を確かめる、ほんの囁くように小さな音が唇から溢れ落ち)ーーー…総、一郎……、?
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