若き将校 2018-03-28 22:31:14 |
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(軍を離れてから一年、戦況の悪化と敗戦、さまざまな事を経験する日本もこの山奥の静かな場所には縁遠い事のよう。毎日欠かさずに新聞を読みながら思うのは、相手は無事だろうか、何処でどうしているのだろうかということばかり。一人の病室は日当たりも良く静かで、過ごしやすい。一年の月日を掛けてじわじわと病が身体を蝕み、軍に居た頃と比べれば筋肉は落ち身体もだいぶ痩せてしまった。肉が落ち目元が僅かに窪んだのか、頰に影を落とす長い睫毛もまた以前よりもくっきりとその色を頰に落として。薄らと青みを感じるような透けるように真白な肌、唯一血色を感じさせる唇からは、定期的に空咳が溢れるようになってしまった。しかし軍に居た時と比べて圧倒的に身体を労わり安静にする事が出来ているため、一年といえどその病の進行は遅く。ーーその日、普段よりも少し体調が良く、日の当たるベッドに上半身だけを起こしたまま、ブラウスの上に温かいセーターを羽織り窓の外の新緑へと視線を向けて。長年各地を探し続けた相手に看護師は手元のカルテを見てその名前を確認し頷くとその部屋番号を伝え、どうぞ、と促して。彼はそんなことは知る由もなく、幾つか咳を溢したものの、窓を開けると気持ちの良い風が頬を撫で)ーーー鷺宮、灯夜様ですね……ええ、確かにいらっしゃいます。
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