主 2018-02-10 20:51:48 |
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>銀之介さん
……しつこいな。
(追ってくる男たちの怒声は狭い路地のせいか反響して妙に大きく耳に障る。よくもそう走りながらがなりたてられるものだと内心で嘆息した。さて、こちらも息一つ切れてはいない。体力はどうやらもうすっかり問題ない。だが、この京の都。やたらにうねっていて入り組んだ路地はいささか不味かった。どこを走ったかは記憶していても、知らない道はどうしようもないのだ。何が花の都だろう、などとと八つ当たり気味に苛立ってしまう。直感を頼りになんとか振り切れれば良いのだが。そう思った瞬間。「――!?」足を止める。三叉に分かれた道から二人組が『ばぁー!』などと奇声を発しながら飛びついてくる。咄嗟に手前の禿頭の男をなんとか躱す。が、次の顎が張った男が立ちはだかって。挟み込まれた。……後ろから追ってきていたはずが何故横からでてくる? 或いは新手なのだろうか。と、思案の間に、ついに背後の連中も追いついてきたようだ。なにやら下卑た笑いを浮かべてにじり寄ってくる。――仕方ない、か。腰の長刀、その鞘に手をあてる。お尋ね者になりたくはないが、背に腹は変えられない。京へくるまでの道中で、こういった手合いの男たちが自分をどうみているのかというのはよくわかった。目には目を。刃には刃を。そして悪意には――正義を。そこで、信じられない光景が『降って来た』。そうとしか表現しようがなかった。なにしろ。なにしろだ。このタイミングで、血だらけの大男が飛び込んでくるとは誰が想像できようか。慌てて身を引く。ぬうっと見上げる形となるほどの大男。筋骨隆々な、本当に大男だった。それも血だらけで長大な刀を握るこの男の気配たるや、一言で“暴”としか言い表しようがない。それもとびきりの、だ。出来ればこの男とは斬り合いたくないな、と思う。大男が口を開くと、なにやら周囲の男たちは萎縮したように狼狽している。先ほどの路地での怒声で耳がキンキンとしていてよく聞き取れないが、風体からみるにきっと大男はこの周囲一帯の悪の親玉か何かなのだ。きっと不甲斐ない家来たちが“私”という獲物を黙っていた事が気に入らないのだ。今もきっと斬り捨てたばかりの家来の血を多量に浴びて高揚している為、周囲の男たちも狼狽しているのだ。――となれば。)
仕方ない。――やるか。
(小さく嘆息して。鞘を走らせ、鯉口を切る。すらりと引き抜かれ、乱れ刃を鈍く輝かせるこれこそ業物。かの刀匠・千子村正が作、その一振り。銘を『勢州伝異聞村正』という。大河家当主に代々引き継がれる此れは本来、二振り一組の代物。二世打ち、贋打ちともされる此れの他に、実はもう一振り存在する。本打ち、真打ちとされる『勢州伝真打村正』があるのだ。母が遺してくれたのはこの『異聞』の方だけであり、『真打』は家督紛争に際して何処かへ失われてしまったのだという。この刀は大河家の歴史でもあり、誇りだ。必ず取り戻さねばならない。方々を巡って旅し、この京の都に渡ったという話を追ってここまできたはずなのに何故――いや、今は考えるまい。本来なら二刀剣術が理想ではあるが、相手はたかだか不逞の浪士。一刀でも十分だろう。まず斬り伏せるべきは――いや。真っ先に倒さねばならないのはこの大男だ。他は問題にもなるまい。先手必勝。決意が早いや、砂利を散らし、地を蹴り、重心は低く、もっと低く。大男の足元に瞬時へ間合いを詰める。身体は半回転気味に、手首は捻りこむように超速度で斬り上げる。これが、「大河御流一刀剣術・孤月が崩し――三日月!」。翻る刃が、彼へと迫った)
(/わぁい過去編おとーさん素敵です!← はい、過去編の伏線だった事にしようって前回思いつきました(Σマテ 今回似たような構成でお返ししたつもりなのですがこちらこそ長文でゴメンなさい。あとうちの子も阿呆の子でゴメンなさい。まだこの頃は表面上さえも余裕がなかったようで。割と本気で斬りにいってるので思いっきり戦っていただければ。戦闘なので遥姫に関してはある程度確定で動かしてもらってもだいじょぶです、合わせられますので! 漫画とかだとページ背景が黒くなってるような過去編ですが、あと数回お付き合いいただければ幸いです……ちゃんと戻しますね!)
>晃さん
ぁ……!
(己の腕と肩。それぞれに置かれていた暖かみが離れてしまう。『失礼しました、大河ではないのですね』――同時に聞こえる、そのひどく物哀しげな声音が、心の臓を鷲づかみした。咄嗟に顔をあげて彼女を見る。そしてひどく後悔する。わかってしまったから。その、彼女の表情で、わかってしまったから。私は。私は、この人を傷つけてしまった――。何か言おうとするも、なぜだか震えてしまって。声はでなかった。やだ。やだ。お願い。いかないで。もうやだ。もう――私を置いて、いかないで……! だが。その願いは、届かなかった。なぜなら彼女は既に口を開いていたから。『でしたら、十番隊隊長の大河遥姫に伝言を頼みましょう』と。こんな、みっともなくて、情けなくて、どうしようもない嘘を、彼女は尊重した。してくれた。――嗚呼。『大河は理由なく人を疎まない』、『貴方に避けられてしまうのはとても悲しいことです』、『耐えられるようなことではありません』。一つ一つの言葉が、心に沁みこんでいく。……私は、一体何をみていたのか。そうだ、彼女の表情は悲しげで、そして穏やかで。ただただ私の身を案じていた。私が自分の事しか考えていなかった時も、彼女は一心に私を心配していただけだった。私はなにをしていたのか。過去に捉われて。あろうことか勝手に彼女を、母さまと重ねて見て。私は。私はもう大河遥姫(ようひめ)ではない。大河遥姫(はるき)なのだ。では大河遥姫とは、どういう人物だ? 決まっている。強い子・良い子・正義の子だ――!)
――待って、ください。
(『…では、お願いします』。そういって今にも離れていきそうな彼女の気配を、自然と指先が求めた。彼女の羽織を小さくちいさく摘もうと。それは少しでも動けば解けてしまいそうなほどか細く。俯いたままで。)
その……大河遥姫は、きっと……こう言いたいと思います。――ありがとう、と。あの時。傍にいてくれてありがとう。支えてくれてありがとう。笑わないでくれてありがとう。心配してくれてありがとう。
……『大河ではない』といったのは、きっと……遥姫(はるき)と呼んでほしかったから、拗ねただけなのだと。
(最後のは少し嘘だ。でも、彼女のあの物哀しそうな顔を消せるならいい。うん。あとはこんなこと言ってる私が死ぬほど恥ずかしいだけだ。それに。もう彼女には嘘をつかない。そう決めたから。「だから――」。だから? どうしたら彼女にこれ以上の謝意を伝えられるだろう? ……そうだ。確か彼女は私の事をこう思っていると言っていた。そう――『妹のような貴方と話せる時が来るのを私はいつでも待っています』と)
――だから、いかないで下さい。そしてできるなら、私の話を聞いてほしい。知ってほしいです。
(俯いた顔をあげて。こんな呼び方が許されるだろうかと思案して。彼女を見上げるようにしながら。「姉さま……?」と。呟いた)
(/出来たところまで落としますー。続きはまた後ほどに)
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