漆黒の翼 2018-02-08 22:41:18 |
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おかあさん、そう呼ぶと優しい声でどうしたの、と返ってくる。
おとうさん、そう呼ぶとごつごつした暖かな手で頭を撫でてくれる。
おとうさん、おかあさん。
……俺が馬鹿だから、こんなことになってしまったんだ。
そんな簡単なことは、いくら15にもなっていない俺でも、本能でわかる。
どうしても一緒にいたいから、頼むから出ていかないで。
お願い、今日だけだから、俺の力でわかるんだ、行ったら二人とも、もう家の扉を開けることはないということ。
俺がまだ幼いから、赤子が泣いて親を引き止めるように、2人の目には寂しいから行って欲しくないと映ったんだろう、大丈夫、すぐ帰るからねとくしゃりと頭を撫でてくれたのが、俺にとって二人の最期。
まるで排水溝から流れる水のように、身体の奥が冷たく、空に放り出されたような無重力感を味わいながら、扉を開ける音が耳に届くのをダイニングのテーブルに突っ伏しながら待つ、幼くて愚かで純真な俺。
心の底から、もう一度二人の顔を見たい声が聞きたい、生きて帰ってきてと天に祈っていたこと、18の今も忘れない。それから続いた、
がちゃり。
この音。
安心感からくる高揚感を抑えながら、弾かれたように玄関に駆けた俺。
満面の笑顔で迎えるつもりだった。おかあさんに抱きついて、おとうさんには撫でてもらおうと思って いた。そう、 思っていた んだ。
笑顔の俺を見下ろしたのは、同情と哀れみの色を瞳に差した、黒い看守服の男二人。
「残念だけど、君の御両親は----」
事故で。
ぴし、ばきん。
二人と目が合い、その言葉を聞いたときに感じた割れた氷の欠片が刺さった感覚。
何も言えなかった。言う必要も無いと思った。
俺はそのまま、監獄みたいな連れていかれ色々聞かれて、……何を答えたかは覚えてないが……、この年で一人暮らしは無理だと判断され、親族に引き取られた。
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