××× 2017-11-23 23:11:06 |
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>44 柊清斗
( 名前なんか知らない。怯えを隠すこともなくそう言ってのけた男を苦々しい顔で見下ろす。そんなはずはないのだ。通りすがっただけのこの男が、あの時自分の名を口にしなければこんなことにはなっていないのだから。
何かを“思い出したような”顔をして、焦りを滲ませた男の仕草に腹が立って舌打ちをする。苛立ちに呼応して黒いビロードの裾が重たげに揺らめいた。意を決して紡いだような言葉を聞き終えて、考える。どれもこれも嘘だという可能性はあった。しかし、そうであったなら相応の態度が返って来ることは覚悟すべきである。逆に考えると、それが嘘かどうかわかるまで当面の安全は守られるだろう。事実、己はこの男を簡単に殺すわけにはいかないと判断していた。野放しにするわけにはいかないのに、殺すには惜しい。
限られたものしか知らないはずの呼び名。ただの男が知るはずのない呼び名。この男の言うことが全て正しいとするなら、確かにこの状況は恐ろしいだろう。事態が把握できていないだろうし、これから起こることもわからない。その上己は男を脅すような言動をしばしばとっていた。「……なるほど」わざとらしい猫なで声で呟く。ローブを翻し背を向けると、ドアへと向かって歩き出した。ノブの真鍮がいつもより冷たい気がする。背後の男をこのまま据え置けば、やがて飢えて死ぬだろう――自らの弱さを悔いながら。そんなビジョンが頭に浮かんで、先程とは打って変わって無愛想な声色で訪ねた。 )
お前の処遇を決める。……名前は?
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