健二 2017-09-28 22:32:08 ID:c196a580b |
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(タクシーは入り組んだ住宅街に入って行く。住宅街とはいっても健二の住んでいる地域とは似ても似つかぬ景観。道は狭く舗装も雑で、時折窪みにタイヤが弾む。立ち並ぶ家々はどれも築年数が古そうで、本当に人が住んでいるのかさえ訝しい。街頭も少なく、こんなところを一人歩きするのはとても恐ろしく感じられる。
誰もいない暗い公園を過ぎると、四角い箱のような建物が幾つか並んでいるのが目に入る。建物の壁は風雨に晒されて黒ずみ、蔦が這って所々コケのようなカビのような、青々とした染みがこびりついている。
有紗の「ここで…」の声を聞いて、ようやくタクシーはハザードランプを灯して停車した)
え、ここ?
(料金は9千円と少し。あの夜、有紗が喉から手が出るほど欲しかった金額よりも高いお金を運転手に渡して、二人はタクシーを降りた。
薄暗い街頭を挟んで並ぶ無機質な四角い建物のひとつ。窓から幾つか明かりが灯っているのが見えるが、本当にここで人が暮らしているんだろうか…。
どこからか小さな子供の泣き声らしきものが聞こえる。また別な方向から喧嘩をしているような罵声が耳に入ってくる)
団地…ってこんな感じなんだ…
(呆然として建物を見上げる健二を置いて有紗が歩き出す。幾つか並んでいるぼんやりと灯る電灯を潜るように入り口に入り階段を登ってゆく)
あ、待って…
(有紗の後について入り口に入る。雑に並ばれた自転車が狭い階段の登り口をさらに狭めて、歩きづらいことこの上ない。塗装の剥げた壁は所々むき出しになったコンクリートにカビのような染みを作る。なんの匂いだろう。どこからか漂ってくる生活臭が鼻につく。黙って階段を上がってゆく有紗にかける言葉が見つからない…)
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