貴方の生徒 2017-03-07 09:28:56 |
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( いつか別れが来ること。そして、その日が今日であること。前々から覚悟はしていた筈なのに、いつもみたいに手を振って貴方の背中を見送るのはあまりにも切なくて。約束を果たす約束、ちゃちな妄想だと馬鹿にされようが、何とか繋ぎ止めておきたかった。笑顔でさよならをするつもりだったのに、気付けば暖かい涙が頬を伝っている。咎めることもせず ただただ困ったように笑う貴方の何気ない一言に、私は嬉しいような哀しいような複雑な気持ちになった。それからどうやって階段を上がって来たのか覚えていない。私は家の中にいて、開いた扉越しに貴方と向き合っていた。数分前まで涙を流していたのだ、充血しているであろう眼を見られまい。最後の最後まで恥をとっぱらえなかった私はずっと爪先を見つめていた。照明もつけずに立ち尽くす私に、貴方は言った。...最後に顔を見せて。閉まりかけた扉の微かな隙間から、顔を上げた私の瞳を覗き込む貴方の笑顔を見て、どうしてか心から安心出来たのは今でも覚えている。つられてくすりと笑みを零すと、今度こそこれで最後なのだと今更ながら実感が湧いてきて。もう泣かない。今まで通りの笑顔をくれた貴方に恥じないよう、私は...。
__バタン、と。扉の閉まる音が鳴り響いたのを合図に、そのまま崩れるようにして腰を下ろした。 )
__どうか終わらないで。先生。
□ 夢の扉が閉まる音
離任式 / 最初で最後
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