蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>黒鈴
(衣擦れの音が聞こえても襖を見るともなく見て考えを巡らせればとりとめがなかろうが瞑想じみた静けさがある。そのせいか差し迫った気配に気付いたのは息遣いを腕に感じたその時で、瞬間「――ぐっ。うっ……」目は見開き唸り声を噛み殺す、油断していた体中が強張って嫌な汗がどことなく滲みたった一瞬で息の仕方を忘れたように喉が閉じた。顔を顰めて奥歯を食い縛っても噛みつく歯にギリ、と力が入れば濁った唸りが零れ良くも悪くも痛みに意識ははっきりとしていて、食い千切るなら容易いだろうにそうしないのはこれが食事ではないからだと冷静に堪えていられる。可愛いげのない戯れは終わるのも唐突で、思い出した呼吸をぎこちなく整えながら二の腕を抑えると湿り気を感じるがやはり食われてはいない、隣に並ぶ姿を見れば「黒鈴……」どこかか細い低い声、目に浮かび頭を占めるのはひたすらに切なさ。可憐で無邪気で官能的に残酷な美しいこの蟲に食われてみたいと思う、しかしそれを良しとしない、どうしたって相手を少女とは思えない本能と薄れない異常嗜好はもはや不治の病でしかない。見つめる相手が口にした虫の名前に漸く複眼の意味が分かり、女郎蜘蛛だと言うのなら納得が出来る白くしなやかな四肢が晒されるとそっと目を逸らし「一人にしてはお上手。ご褒美をやるから、俺を食べるんじゃあないよ」ポケットから紙ごと残りを相手に渡せば立ち上がってもう一度襖を開き、使えない掛け布団の代わりにさせようと掻巻を引っ張り出してほら、と頭から被せてしまいぽん、と一度頭に手を乗せ「あとは良い子にお休み」そのままのそのそと掛け布団やら殻やらを部屋の隅に片付け)
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