蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>朝陽
(静かな部屋に籠っていれば小さく些細な音が脳を掻き乱すか如く鮮明に届く。ひたりひたり、決して大きくない筈の音が餌をちらつかされる様に嬉しくてならないのだ。そして、漸く__開いた引き戸の擦れる音に肩を揺らす。黙りこくり我関せずと気の無い素振りなど甚だ無理だったのだ、俯きがちの顔を少しだけ上げて戻って来たその姿をしかと捉える。同時に向けられた茶化す言葉に先の自らが向けた子供染みた当て付けをずるりと撫でられるみたいに居心地悪く照れ臭い。思わず、顔をまた俯かせてしまう。布団の擦れる音、身体の重みを吸収した布が立てる小さな音、そして何よりもしっかりとした音は彼の声。傍に来ることを許可するその言葉に逸る胸を抑え込み、のろのろと布団へ歩み寄りモゾリと入り込む。布団の温かさはつい先ほど、籠る様に過ごしていた蟲卵に似ている気がして無意識に安心を感じ。続く問いかけ、正直なところはわからないと言うのが正しい返事で有り真剣な眼差しの彼に適当な返事を送る事はなぜが憚られ言葉に詰まる。本当はこの場濁しだとしても頭を縦に揺らして分ると答えるのが正しいのだとわかっているのに、だ。布団の中に座ったままの体制で頭を左右に揺らしては芋虫のように布団の中で体を倒し、先の彼の行動を真似るように寸分と違わない同じ体制を取り「わからない…__でも、暖かい」結局噓をつく事は無く素直に答え、眠れない自らに彼が付き合う事は無いと伝える為に後者に言葉を添えれば「此処は蟲卵の中みたいに居心地が良い」暖かく守られているような安心感、おして何よりも蟲卵越しのくぐもる音ではなく鮮明に彼の声を聴く事が出来る、出て来たこの世は己が思っていたよりも案外良い物だったのかもしれないと思ってしまう程に。何もあなたの声が聞こえるから蟲卵より居心地が良いですと伝えるのは野暮な気がして飲み込み、もぞもぞと一層と細長い身を丸くして)
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